部屋の扉をノックする音が聞こえ開けると、箱入りのチョコレートを持ったカミルが立っていた。ソファーに座ったカミルの隣にリーゼも座る。

「今日は、ありがとう。お爺様にケーキを持って来てくれて」

「私の方こそ、喜んでもらえて嬉しかったです」

「怖くなかったのか? お爺様に会うのが。昨日あんなに酷いことを言われたのに」

「ほんと言うと、すっごく怖かったです。醜い召使のことは嫌いだろうから。でも私、人から嫌われるのは慣れてるから」

笑顔でそう言ったリーゼをカミルはいきなり抱きしめた。

「カミル様!?」

「俺が、俺がもっと早くお前に会えていたら。もっと早くお前を見つけていたら。そんな辛い目に遭わせなかったのに。本当にすまない」

「どうしてカミル様が謝るの? 私、本当に感謝してるんです。あの監禁塔から連れ出してくれただけじゃない。私、こんなにたくさんの人たちと毎日言葉を交わすのもはじめてだから、とても嬉しいんです」

「リーゼ……俺の、花嫁……」

カミルは更に強くリーゼを抱きしめた。恐る恐るリーゼもカミルの背中に両手をまわそうとした時、カミルはリーゼを突き離した。

「もう夜も遅い。おやすみ……」

「おやすみなさい……」

カミルが出ていってひとりきりになった部屋の中で、リーゼは後悔した。きっと醜い自分が抱きしめ返そうとしたから怒ったのだと。

今まで人に嫌われても傷付きはしたけれど、こんなにも不安で寂しく思ったことはなかった。カミルだけには嫌われたくない。

だからこそ自分の気持ちは隠そうと思った。生贄花嫁の儀式の日までカミルの傍にいれるだけでいい。

もしかしてこれが、人を好きになるということなのだろうか……。