リーゼの父親であるケンプテン大公はリーゼの母親である大公妃が亡くなってから半年もしないうちに、その寂しさを埋めてくれた若くて美しい当時は召使だったベルタと再婚した。

ベルタは召使としてリーゼの出産に立ち会い、リーゼがブラックオパールの瞳であることに最初に気付いた人物だ。

そのベルタと大公の間に生まれたのが、リーゼの1歳下のケンプテン大公国の第一公女となるイルメラだ。

本来はリーゼが第一公女だが死産として存在を抹消されてしまっている。

イルメラはベルタから聞いてリーゼが義姉であることも、ブラックオパールの瞳を持つ呪われし子であることも知っていた。

「あんたは公女としての教育は何も受けてないけど、召使いの仕事ならなんでも得意だものね。どう? あんたの好きなフリッツと結婚するあたしのためにウェディングドレスを作る気持ちは?」

「違うのよ、イルメラ。前にも言ったけれど、私は別にフリッツのことは……」

フリッツ・クラネルト。彼はケンプテン大公国の隣国であるウルム王国の第三王子だ。

ケンプテン大公国とウルム国は長年敵対関係にあったがケンプテン大公に男児が生まれなかったことから、ウルム王国から婿養子を貰うという条件の政略結婚によって和平を結んだのである。

リーゼより2歳上のフリッツはイルメラの許嫁として7歳の時から故郷であるウルム王国を離れケンプテン大公国の城で暮らしていた。

許嫁とはいえその実は人質だったが、リーゼとイルメラにとっては兄のような存在だった。

リーゼとフリッツは深夜の図書室ではじめて会った。

その時に包帯が外れてしまいフリッツはリーゼの瞳や出生の秘密も知ることになったが、ずっと優しく接してくれている。