森の中を進んでいくと、大きな唐檜の木の枝にロープで木の板が結ばれただけの簡単なブランコを見つけた。ブランコに腰かけてゆっくりと揺らして漕いでいるうちに、包帯を巻いてない右目から涙が零れてきた。

監禁塔で幽閉されていた時も、カミルの城に来てからも、頭ではわかっていても心まではいろいろなことがついていっていなかった。誰もいないからリーゼは声を上げて泣いた。

すると一匹の栗鼠がやって来てリーゼの肩にポンと飛び乗った。次第に兎や狐、鹿に熊などの森の動物たちが集まってきてリーゼを囲み心配そうな顔で見つめている。

「みんな、集まってきてくれたの?」

動物たちはじっとリーゼを見ている。

「励ましてくれてるのね、ありがとう。でももう大丈夫! 私は生贄花嫁になるんだから」

頬の涙を拭い近寄ってきた動物たちを撫でていると、駆けてくる馬の蹄の音と嘶く声が聞こえた。顔をあげるとそこには、白馬に乗ったカミルが手綱を引いて馬を止めていた。

「カミル様!」

「どうした!? 何があった!?」

「えっ? カミル様こそどうしてここへ?」

「管理する森の見廻りをしていたらお前の泣く声が聞こえたから。狼筋は耳がいいんだ」

馬から颯爽と降りたカミルはブランコに腰かけているリーゼの元に来ると、片足を地面について跪きリーゼの顔を覗き込んで言った。

「何があった? なぜ泣いていた?」

漆黒の長い前髪からのぞく真剣な青い瞳に見つめられて、胸がキュンとしてしまう。

「あ、あの……」

とてもじゃないけど「生贄花嫁の醜い自分がカミル様に相手にされるわけがないから悲しくて泣いていたんです」とは言えない。