仲間も合流したのであろう、猟師たちの声が近づいてきている。

「隠れなくちゃ!」

左目に包帯を巻いた少女は細い両腕から溢れ出る重いカミルを抱き抱えたまま、一生懸命走って洞穴の中へと逃げ隠れた。

「ここならきっと大丈夫」

カミルは少女と話したかったが弱っているから人の姿に戻る力がない。左前脚から流れる血を少女が自分のドレスの袖部分を破って傷に巻き止血してくれた。

「ばい菌が入らないように薬草を取って来るわ。ここで待ってて」

カミルは危険だから行かないでと思ったが、動くことも伝えることもできない。少女は走って洞穴から出ていった。

どのくらいの時間が経ったのだろう。

きっとザシャもお爺様達も心配しているに違いない。あの少女ももう見捨てて帰ってこないかもしれない。カミルが弱気になっている時だった。

「お待たせ! 三種類も薬草見つけたよ!」

息せき切って駆け込んできた少女は、石で三種類の薬草をすり潰すとカミルの左前脚の傷に塗り込んだ。薬草が沁み込み激痛が走る。しかししばらくすると、不思議なくらい痛みが引いていった。

「消毒と鎮痛と麻酔効果のある薬草だから傷自体は今すぐには治らないけど、もうちょっとすればおうちまで歩けるようになると思うわ」

カミルは人間が嫌いだ。なんの能力もないくせに独善的で自己中心的で、それでいて一人では何もできないから群れる。そして他人を平気で裏切り傷つける。

しかしこの少女は違った。この少女は命の恩人だ。カミルは少女の名前が聞きたかったし礼も言いたかったが如何せん、人間の言葉を話すことができない。

カミルは寝そべったまますっと伸びた長い鼻をこつんと少女の体に当てた。少女はカミルを抱きしめてくれ、何度もやさしく体を撫でてくれた。それはとても心地よかった。

眠ってしまったカミルが目を覚ますと洞穴の外は真っ暗になっていた。少女はまだ寄り添っていてくれている。左前脚の傷口の痛みはなくなり、立ち上がることも歩くこともできるようになっていた。