あの少し高くてかわいい声や表情、仕草。甘い香りに柔らかい肌の感触。

不意を打たれて薄い夜着で透けていた胸や身体のラインを見た時は、思わず赤面してしまった。女の裸など見慣れているはずなのに。

そして、左目のブラックオパールの瞳。

カミルはバスタブの縁に乗せている左腕に深く刻まれた銃痕を見つめると、子供の頃のある出来事を思い出した。

それは今から十年前のこと。

黒い森の中で狼の姿になってザシャと遊んでいた11歳のカミルは、蝶を追いかけているうちにザシャを見失ってしまった。その日は強風でザシャの匂いを追い切れなかった。

仕方なく歩き回って探して崖の上まで来ると、茂みの向こうからガサガサと音がする。「さては、隠れているザシャが突然飛び出して驚かせようとしているな」。そう思ったカミルは先に勢いよく茂みの中に飛びこんだ。

しかしそこにいたのは、人間の猟師だった。

驚いた猟師はカミルに向けて一発銃弾を放った。

銃弾はカミルの左前脚の外側を貫通し、「キャン」と悲鳴をあげてその場に倒れた。

猟師はカミルを仕留めようと狙いを定め二発目の銃弾の引金を引こうとしている。

このままでは逃げ切れない。そう悟ったカミルは三本の脚で何とか立ち上がると勢いよく自ら崖の下の谷底へと落ちていった。

崖の下の岩場に強く体を打ち付けたカミルはもうそれ以上動くことができなかった。

崖の上では角笛を吹き仲間を呼んでいる猟師の声がする。このままでは見つかって捕えられるのも時間の問題だ。目を閉じて万事休すと諦めた時だった。

「小さな狼さん、大丈夫?」

そう呼びかける少女の声に誘われて目を開くと、左目に包帯を巻いた少女がカミルの顔を覗き込んでいた。

「まあ、ひどい怪我。きっと猟師さんに撃たれたのね」