ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

カミルはそれには何も答えず、俯いているリーゼの顎を細く長い指でくいと上げた。

「かわいそうな、左目を、包帯で隠した娘」

二人きりになるとカミルの態度はまるで違う。

いくら大公に頼まれたからとはいえ、生贄花嫁であることを忘れてしまいそうになるくらいやさしくなるから戸惑ってしまう。

「包帯、取ってもいいか?」

リーゼは小さく頷いた。

もう寧ろ、怖ろしくて醜いブラックオパールの瞳を見せてカミルにはっきり嫌われた方が楽な気がした。

リーゼの左目の包帯をゆっくりとカミルが解いていく。巻いていた包帯がすべてするすると床にすべり落ちた。

俯いているリーゼの両頬を両手で包み込み持ち上げると、カミルはその瞳をまじまじと見た。

リーゼの左目は右目と同じように涙で潤んでいた。ただし、見る者すべてを吸い込んでしまいそうな、宇宙の果てのような、黒くて妖しく七色に輝くブラックオパールの瞳。

「美しい」

何も表情を変えないままカミルが言う。

「そんなわけ……ない」

この瞳のせいで家族にも他人にも虐げられてきた。自分でもこの醜い瞳が大嫌いだ。況してや異性から褒められるようなものではない。

自分の最もコンプレックスである部分を美しいと言うカミルの言葉は信じることができなかった。

生贄花嫁にしないといけないから。お父様に頼まれたから。そう言っているだけ。

顔を背けたリーゼの左目にカミルはやさしくキスした。

驚いて顔を上げると、カミルは手に持っていた指輪ケースの蓋を開けた。中には燃えるような深紅の大粒のルビーの指輪が入っている。

「これはカミルの名を持つ先代のカミル6世から受け継がれた、122年に一度の紅の月の夜に結婚式を挙げる生贄花嫁のための婚約指輪だ。どうする? これを受け取ればもうお前は本当に生贄花嫁の宿命から逃れられなくなるぞ」

「……受け取ります」

リーゼは自分の左手をカミルに差し出した。その手を取りカミルが細い薬指に指輪を嵌める。