「ようこそ、我が城へ」

「あ、ありがとうございます」

「シャンパンは祝いの酒だ。二人の初めての夜に、乾杯」

初めての夜!? 一瞬怯んだリーゼにカミルは笑って言った。

「安心しろ。黒い森の支配者の生贄花嫁に手を付けることはできない」

勝手に勘違いして恥ずかしい!

カミルが何事もなかったかのようにシャンパンを飲んだので、リーゼも釣られるようにシャンパンを口に含んだ。

お酒を飲むのははじめてだ。内臓が熱くなりアルコールが全身に駆け巡っていくのがわかる。

「疲れたか?」

隣に座っているカミルがリーゼを見つめて言う。

「はい、少しだけ」

「夕食会でも何も食べていなかっただろ? サンドイッチ持ってきた」

「ご親切にありがとうございます」

「夕食会、皆で酷いことばかり言ってすまない」

「いいえ。すべて本当のことですから」

「そうやっていつも、何も言わずにすべて受け入れて我慢してきたのか?」

「え?」

「なぜ、召使上がりの女と言われて反論しなかった? 本当は、大公の第一公女であり、正当な公位継承者のはずなのに」

「どうしてそれを!?」

「馬車に乗る前に大公に呼ばれて二人きりで話をした時、俺にだけ教えてくれた。お前の生い立ちの秘密を。本当は身分が高く生まれたお前を召使と身分を偽らせこの世から抹消したと。だからその償いとして、生贄花嫁の儀式の日まで大事にしてやってほしいと頼まれた」

「お父様が……」

リーゼの右目が潤んできた。

「私は呪われし子。本来ならもうこの世にはいないはずなんです。死産だったと私のお墓だって大公妃だったお母様の隣にあります。お母様のお墓参りの時に自分のお墓参りもしていたから」

「自分で自分の墓参りなど……」

「でもお父様の御慈悲が私をこうして生かしてくれたんです。そっか、カミル様が私によくしてくださるのはお父様が頼んでいてくれたからなんですね。それならすべて納得です」