「この私の怖ろしくて醜い瞳を見たら、みんな逃げ出すわ。もちろん、カミル様も」

背後に立っている鏡の中のカミルにリーゼは答えた。

「俺はそんなことは気にしない。お前のすべてを受け入れる」

「私はこの瞳のせいで生まれた時から死んでいた。この瞳を一番見たくないのは誰よりも私自身なんです」

「お前が嫌なら、無理にとは言わない。さあ、行こう。家族に紹介するよ」

一体この人は何を考えているのだろう? 

生贄花嫁にするのにこんなに甘い言葉ばかり言って。

それか単純にこういうことを簡単に言えてしまう性格なのかも。きっとそうに違いない!
 
さっきも言われたとおり全部真に受けてはダメ!

昨日までの生活とはあまりにもかけ離れすぎている現実に戸惑うリーゼの肩を、カミルはやさしく抱き寄せて部屋から夕食会場へと連れ出した。

城の食堂ではすでにザシャをはじめカミルの親族たちが一堂に会して、長いダイニングテーブルに着席して待っていた。

カミルにエスコートされて入ってきたリーゼを一斉に一同が見る。

皆カミルと同じ狼筋の特徴である青い瞳だ。

ザシャ以外の全員がリーゼの包帯を巻いた顔を見て怪訝そうな顔をした。

「我がヴォルフ家の皆様、お待たせいたしました。ご紹介します、こちらが俺の婚約者、リーゼ嬢です」

カミルに紹介されてリーゼは膝を折ってカーテシーしたが、ザシャ以外はリーゼを冷たい目で見た。

カミルの次の上座にはカミルの祖父であり先々代の当主であったニクラス5世。

先代当主だったカミルの父親と母親はカミルが幼い頃に他界していた。

そのため親代わりとしてカミルを育ててきた、カミルの父親の弟でありザシャの両親でもあるエッカルト公爵と公爵夫人。

その他の親族も皆狼筋の貴族だ。