マルゴットは絶叫した。

なぜならブラックオパールの瞳を持つ者は人々に災いをもたらす不吉な悪兆であり、呪われし子と呼ばれているからだ。

況してや一国の首長である大公の第一公女が呪われし子であることなど、許されるわけがない。

大公妃の死と呪われし子の誕生。

隠し通すことなど到底できない。マルゴットは自らの死を覚悟した。

「大公様をお呼びして」

ベルタが部屋の外で待機している大公を呼びに行く。

すでに部屋の外でリーゼの元気な産声を聞いて喜びに満ちた笑顔で部屋に入って来た大公の顔は一瞬で険しくなった。

それが怒りと絶望に変わるのに時間はかからなかった。

大公の悲しみと嘆きは深かった。最愛の王妃が亡くなってしまっただけではない。

その命に代えて遺してくれた最愛の我が子が、ブラックオパールの瞳を持つ呪われし子だったのだから。

大公には一国の首長として国民を守る責務がある。

リーゼのブラックオパールの瞳が災いをもたらして、国が滅びることだけは絶対に避けなければならない。

己の悲哀よりも大公国を守ることが最重要事項なのだ。

大公はリーゼを殺して国民には死産だったと公表することにした。

一度は本気でリーゼを殺そうと決意したが、最愛の大公妃の忘れ形見でありすやすやと腕の中で眠る我が子を見ていると、たとえブラックオパールの瞳であろうとどうしても手に掛けることはできなかった。

しかし第一公女が呪われし子などと決して誰にも知られてはならない。

大公はリーゼのブラックオパールの瞳である左目を包帯で巻いて隠し、十年近く使われておらず誰もいない城の離れの監禁塔に幽閉することにした。

身分も召使と偽らせて。

国民には大公妃は出産により死亡、生まれた第一公女も死産だったと公表され国葬も執り行われた。

城内の公族の墓地には大公妃の墓の隣にリーゼの墓も建てられた。

国は深い悲しみに包まれたが、悪兆が現れた場合に起きるであろう大混乱に比べればただ時が過ぎていくだけで済んだ。

責任を感じた召使長のマルゴットは自ら願い出て監禁塔のリーゼを育て面倒を見ることにした。

そしてリーゼの出生の秘密を知る者は、大公とマルゴットとベルタの3人だけとなった。