カミルはリーゼの手を取って、奥の部屋へと連れていった。

そこはリビングで豪華な調度品とシャンデリアが吊り下がっている。

ソファーの前のテーブルには季節の花々が生けられ、5段のアフタヌーンティーセットが用意されていた。

「かわいい! それにとっても美味しそう」

皿の上にきれいに並んでいるデコレーションされたプチケーキや焼き菓子を見てリーゼの笑顔がはじけると、ザシャも一緒に笑った。

カミルは更に奥に続く部屋の扉を開いた。

「こっちは寝室だ」

中に入ると部屋の中心に天蓋付のクイーンサイズのベッドが置いてあった。

足元の荷物置きだけでも、監禁塔のリーゼの粗末な木のベッドより遥かに大きい。

「こんなに広いベッドで私一人で寝ていいんですか?」

「心配なら俺が一緒に寝てやろうか?」

監禁塔に召使として幽閉され子供の頃から父親の大公とですら一緒に寝たことのないリーゼは、カミルの言葉に硬直してしまった。

するとカミルははじめて笑ってリーゼの頭を撫でた。

「真に受けるな、冗談だ。バスルームもトイレもすべてこの部屋に備わっている。自由に使え」

「自由に?」

「ああ」

監禁塔でまるで囚人のように暮らしていたから、自由という言葉は憧れであり夢の言葉。

これから生贄花嫁になるのにこんな生活ができるなんて思ってもみなかった。

「あの、私、生贄花嫁ですよね?」

「そうだ」

「来月生贄の儀式ですよね?」

「ああ」

「それなのに、こんな素晴らしい生活をしていいんですか?」

「別にこれくらい普通だろ」

「これが普通!? 私てっきり地下牢とかに閉じ込められるんだと思っていたから。こんな素敵なお部屋を用意してもらえるなんて、夢にも思ってなかったから」

カミルはリーゼを切ない眼差しで見つめた。

「お前はその華奢な身体に一体どれほどの苦しみを独りで背負ってきたというのだ。俺の元に来た以上、もうそんな辛い生活はさせない」

「えっ?」