「会うまでは怖いと思っていました。狼筋だからもっと毛むくじゃらで耳とか尻尾とかも生えてて、大きな口に大きな牙とか想像していたから。だから逆にびっくりしました」

「祖先が狼だった者が人の姿になったのが狼筋だ。子供の頃は簡単に狼の姿に変われるが、大人になると狼の姿になるのは身体に対する負担が大きくて寿命を縮めることになる」

「寿命を!?」

「だから大人の狼筋は余程のことがない限り狼に姿を変えることはないし、人の姿でいる方が自然なのだ」

「そうなんですね。幼い頃はよく狼になってたんですか?」

「ああ。森の中を走り回っていたよ」

またカミルがリーゼを真っ直ぐに見つめてきた。

無表情ではあるが青い瞳が揺れているように見える。

「何か?」

「いや、別に」

そう言ってカミルは視線を外した。

「お前は自分の運命を呪わないのか?」

「私は呪われし子です。本当なら生まれた時に殺されているはずだった。だからなんでも受け入れようと思うんです。それに、あの監禁塔でこのまま一生幽閉されるのは死んでるのと同じだから」

そう言って笑ってみせたリーゼの頬に片手を伸ばしてカミルが触れた。

「いいか、俺とお前が出会ったのは運命だ」

「運命?」

「俺とお前はこうして出会う運命だった。決して避けることのできない」

カミルは真剣にリーゼを見つめている。

その青い瞳を美しいと思った。

「私は生贄花嫁になる運命ってことですね。安心してください、どこにも逃げたり隠れたりもしませんから。その代わり、今後もケンプテン大公国を絶対に攻めたりしないで」

「ああ。約束する」

「よかった」

カミルはずっとリーゼを見つめている。

でももう話すことなど何も浮かばない。

沈黙に耐えられなくなり目を閉じて寝ているフリをしたリーゼは、いつしか揺られる馬車の中で本当に眠り込んでしまった。