はじめて乗った黄金の馬車の中で、リーゼとカミルは向き合って座っていた。

組んだ足に片肘をついて左頬を支えているカミルは、目を逸らすことなくずっとリーゼを見つめている。

たしか謁見の間でもずっとこんなふうに見つめられていたような。

でもいつも無表情だからカミルが何を考えているのか全くわからない。

馬車の窓は漆黒のベルベットのカーテンで覆われていて蝋燭の灯だけで中は暗い。

カミルの青い瞳の瞳孔が大きくなっていて底知れぬものを感じる。

「なぜそんなにずっと見つめるんですか? 私の包帯を巻いた醜い顔がそんなに珍しい?」

「その包帯はいつからしているんだ?」

カミルは無表情で聞き返してきた。

「生まれた時からずっとです。ブラックオパールの瞳で生まれてきた時から」

「ブラックオパールの瞳を持つものは災いをもたらす悪兆。不吉を呼び起こす」

「だから黒い森の支配者に捧げる生贄花嫁にするんですね」

「我がヴォルフ家は代々、122年に一度の紅の月の夜に、ブラックオパールの瞳を持つ娘を生贄花嫁として黒い森の支配者に捧げる儀式を執り行ってきた」

「122年に一度?」

「ああ。ヴォルフ家の当主はその儀式だけは何があっても執り行わねばならぬ。俺が当主となって遂に来月、その紅の月の夜がくる」

「黒い森の支配者ってどんな人なんですか?」

「人ではない。神だ。俺も会ったことはない」

「そうなんだ。生贄ってどうやってされるんですか? 磔とか? もしかして食べられちゃったりとか?」

それまでずっと真っ直ぐに見つめてきたのに、カミルはリーゼから目を逸らした。

「さあな。その時になってみないと俺にもわからない。だが大公と約束した。絶対に苦痛を与えるようなことはさせない」

「嬉しい! よかった。カミル様はお優しいですね」

笑顔で答えたリーゼにカミルが驚く。

「お前、生贄花嫁にしようとしている俺が怖くないのか?」