リーゼは駆け寄って大公の首に両腕を回して抱きついた。大公もリーゼを抱きしめてやる。

「我が愛する娘、リーゼよ。本当に美しい。母親の大公妃にも見せてやりたかった」

「お父様……」

「わしがあんな女に惑わされたせいでなんの罪もないお前を何度も命の危険に遭わせてしまった。愚かな父を、どうか許しておくれ」

「いいえ、お父様。カミル様との結婚を認めてくださって感謝しています。そして、フリッツを養子に迎え入れてくれて、ありがとう」

「同盟国とはいえ半ば人質のフリッツは、幼い頃からわしの城で本当の息子同然に育ってきたからな。わしもフリッツになら安心して国を継承できる。これが誰にとっても最善なのだ」

フリッツが大公に礼をした。

「大公様、いえ、父上。僕は大公国と父上に永遠の忠誠を誓います。リーゼ、そしてカミル様、僕のことも最後まで気にかけてくれて、本当にありがとう。カミル様、リーゼをずっと離さないでくださいね」

「ああ、約束する」

カミルとフリッツは固い握手を交わした。

城の鐘楼(しょうろう)の鐘が鳴った。

「時間だ、行こう」

カミルはリーゼの手を取ると皆が待つバルコニーへと向かった。

バルコニーに出るとずっと晴れていて雨など一滴も降っていないのに、空には二つの虹が出ていた。

「シュヴァルツヴァルトの支配者も祝福しているよ」

ヴェンデルガルトの言葉にカミルもリーゼも微笑む。

見つめ合った二人はバルコニーでキスをした。

広場から大歓声や口笛と共に紙吹雪や昼の花火や大砲も打ち上がり、誰もが森のために命をかけて闘った二人を盛大に祝福した。

そんな心から愛し合う二人を包み込むように、森中の鐘楼の鐘の音がいつまでもいつまでも鳴り響いた。

(了)