「ああ……そんな……あんなに優しかったマルゴットまで……」

耐え切れずに崩れ落ちそうになったリーゼをカミルがしっかりと抱き寄せる。

「あたくしはマルゴットを殺してなどいません!」

「いいえ!」

フリッツが強い口調で負けじと反論する。

「僕はマルゴットの妹から日記を手に入れた際、マルゴットの墓も暴いて髪と骨を採取しました。そしてそこから、リーゼの母親の遺体と同じ毒物が検出されたのです!」

「黙りなさい! フリッツ!」

怒り狂うベルタをフリッツは睨み返した。

「わしはやっとこの女の妖力から目が醒めた。3日前、イルメラとの婚約式のためカミルが大公国の城にやって来た時、わしはすべての真実をカミルに報告したのに、カミルはお前たちを生贄にしようとしなかった。なぜだかわかるか?」

抱きしめてくれている背の高いカミルをリーゼが見上げると、カミルはリーゼをやさしく見つめた。

「それでもリーゼはお前たちの代わりに生贄花嫁になって命を落とそうとするからだ。しかしわしは違う。最愛の大公妃を殺され、忘れ形見のリーゼをこんなにも苦しめたお前たちを決して許しはしない。カミル1世と同じ罪を犯した者として、お前たちを生贄としてドラゴンに捧げよう! さあ、おとなしく悔い改めるがよい!」

真実を知りベルタの妖力から醒めた大公にベルタは泣いて(すが)った。

「ああ貴方、どうかお許しくださいませ。すべてはあたくしが貴方を愛してしまったからなのです。それにイルメラだって正真正銘貴方の娘なのですよ。どうかお慈悲を」

「お前たちに与える罰はあっても、与える慈悲はない」

「罪は認めます。罰も受けます。でもあたくしたちは本当に黒蛇筋の女ではないのです。だから生贄などにはなれません」