「まさか……あんなに心配してくれていたのに……」

「嘘よ! 全部濡れ衣よ! カミル様は嘘をついている!」

狂ったように叫ぶイルメラに、カミルは冷たい青い瞳で言い放った。

「嘘じゃない。ザシャ!」

カミルに呼ばれたザシャが森の茂みから湖畔に現れる。逃げられないよう騎士団に両手両足を拘束された、リーゼを襲った木こりを引き連れて。

「嫌!」

木こりを見てあの嵐の夜の恐怖を思い出したリーゼは、わなわなと震え出しカミルの胸に顔を埋めて目を背けた。

「すまない、辛いことばかりで。でも今は俺が傍にいるから。大丈夫だから」

カミルはリーゼの髪を撫でて慰めた。

ザシャがイルメラを指差して木こりに問う。

「お前を金で雇い、リーゼを襲うように頼んできたのはこの女か?」

「ああ、そうだよ。声音もケンプテン訛りもこの女で間違いない」

「嘘よ! 出鱈目よ! みんなリーゼに騙されているのよ!」

「まだ他にもいるぞ!」

すると茂みから違う声が聞こえてきた。その声の主はフリッツだった。

「フリッツ!」

リーゼが叫ぶとフリッツは笑顔で手を振った。

こちらも逃げられないよう両手両足を拘束された、髭面の大男を引き連れている。大公国の城下町の市場でリーゼの包帯を無理矢理外しブラックオパールの瞳を晒した、あの腕に髑髏の刺青がある男だ。

「大公国の市場でリーゼの包帯を取って、瞳を晒したのはお前だな?」

「ふん、金をやるから左目に包帯を巻いた召使が林檎を買いにきたら、包帯を無理矢理取ってブラックオパールの瞳だって騒げって頼まれただけだ」

「誰に頼まれた?」

「あの時はメイド服を着ていたが、あの女で間違いない。あの真っ黒な瞳のな」

大男に指差されたイルメラは青褪めて震え出した。