カミルは庇うようにリーゼの矢面に立つと、ドラゴンに正面から向き合った。

「この娘を連れて行くなら、俺も一緒に連れて行け!」

今度はリーゼがカミルの前に出てドラゴンの前に立った。

「そんなの駄目! 私だけ連れてって!」

ドラゴンは天に向けて炎を吐いて紅の月をさらに赤く染めた。

「ああもう面倒臭いわ! よし、いいだろう。カミルとリーゼ、貴様たち二つの命をもって生贄花嫁の儀式を終焉とする。呪われしカミルの名は解放された!」

見つめ合ったカミルとリーゼは微笑み合うと口づけを交わし、きつく抱き締め合ったまま終わりを待った。

その時、「クークック」という笑い声が湖畔に響いた。

「久しぶりだねえ、支配者に仕えしドラゴンよ。122年ぶりだね」

「ヴェンデルガルトか。随分と老けたな」

「ふんっ。どいつもこいつも女心のわからない奴ばかりだよ」

リーゼがカミルの胸から顔を上げると、いつの間にか隣にヴェンデルガルトが立っていた。

「お婆さん!」

「よく来たね、リーゼ。褒めてやろう」

「どうしてここに!?」

「そんなことは知らないさ」

楽しそうに「クークック」と笑ったヴェンデルガルトは、ドラゴンに向き直った。

「支配者に仕えしドラゴンよ。あんた、この抜け目がなくて用意周到で、この娘と管理者としての責務を果たすためならどれだけでも非情になれるこのカミルの7代目が、本当に生贄花嫁を用意していないと思っているのかい?」

「何?」

ドラゴンがカミルを睨む。カミルは表情を変えずにリーゼを抱きしめたまま沈黙を貫いた。

「そんなリーゼみたいな善良な娘を生贄として連れて帰ったところでつまらないだろ? 元はと言えば邪悪な黒蛇筋の女を懲らしめるためなんだから。ちょうどいい生贄がちゃんといるよ。それも二人もね」