睨み合ったまま紅の月が天頂から少し西へとずれた時、漸くドラゴンが口を開いた。
「いいだろう、取引しよう。その指輪と交換に生贄花嫁の儀式は終焉させる。しかし、今回は無理だ。ブラックオパールの瞳の娘を生贄花嫁として今すぐ差し出せ。その代わりその娘をカミルの名を持つ者を命に代えて愛した者として支配者に捧げよう。そうすれば儀式は終焉する」
「残念だが生憎、生贄花嫁は用意していないんでね」
「何だと? 貴様、まさか本当に指輪一つで我と取引しようとしたというのか?」
「ああ。できるだろ?」
「見縊られたものだ。我が己の命を惜しむためなら何でも受諾すると思ったか! 我はシュヴァルツヴァルトの支配者に仕えしドラゴン。契約は絶対。カミル7世は生贄花嫁の儀式を不履行した! 直ちに管理下の森を消滅する!」
怒りに燃えたドラゴンは更に天高く昇り紅の月の前まで飛んでいくとその翼を大きく広げ、今まで以上に全てを恐怖に陥れ森中を揺るがすような咆哮をあげて炎を吐いた。櫓の下の一行が悲鳴を上げて逃げ惑う。
カミルはドラゴンが吐く炎の熱さと熱風に耐え、ドラゴンを青い瞳で鋭く睨んだまま指輪を嵌めた左手を宙に翳し、右手で構えた銃でいつでも己の左手ごと指輪を破壊できるよう、照準を合わせ引き鉄に指をかけた。
ドラゴンもカミルもどちらも一歩も譲らない。どちらが先に火蓋を切るのか。どちらが先に破滅するのか。皆が固唾を呑んだ時だった。
「待って!」
紅の月を背にしているドラゴンがゆっくりと、黒い縦長の瞳孔の黄色い瞳で声がした湖の入口を振り返る。
その視線の先にいたのは、カミルが贈ったウェディングドレスを身に纏ったリーゼだった。
「いいだろう、取引しよう。その指輪と交換に生贄花嫁の儀式は終焉させる。しかし、今回は無理だ。ブラックオパールの瞳の娘を生贄花嫁として今すぐ差し出せ。その代わりその娘をカミルの名を持つ者を命に代えて愛した者として支配者に捧げよう。そうすれば儀式は終焉する」
「残念だが生憎、生贄花嫁は用意していないんでね」
「何だと? 貴様、まさか本当に指輪一つで我と取引しようとしたというのか?」
「ああ。できるだろ?」
「見縊られたものだ。我が己の命を惜しむためなら何でも受諾すると思ったか! 我はシュヴァルツヴァルトの支配者に仕えしドラゴン。契約は絶対。カミル7世は生贄花嫁の儀式を不履行した! 直ちに管理下の森を消滅する!」
怒りに燃えたドラゴンは更に天高く昇り紅の月の前まで飛んでいくとその翼を大きく広げ、今まで以上に全てを恐怖に陥れ森中を揺るがすような咆哮をあげて炎を吐いた。櫓の下の一行が悲鳴を上げて逃げ惑う。
カミルはドラゴンが吐く炎の熱さと熱風に耐え、ドラゴンを青い瞳で鋭く睨んだまま指輪を嵌めた左手を宙に翳し、右手で構えた銃でいつでも己の左手ごと指輪を破壊できるよう、照準を合わせ引き鉄に指をかけた。
ドラゴンもカミルもどちらも一歩も譲らない。どちらが先に火蓋を切るのか。どちらが先に破滅するのか。皆が固唾を呑んだ時だった。
「待って!」
紅の月を背にしているドラゴンがゆっくりと、黒い縦長の瞳孔の黄色い瞳で声がした湖の入口を振り返る。
その視線の先にいたのは、カミルが贈ったウェディングドレスを身に纏ったリーゼだった。


