「まあそれで疑われずに済んで信憑性も深まったわけだけど。婚約だけならいつでも破棄できるしね」

「でもまだひとつ、気になることがある」

カミルはリーゼが作った薬の瓶をザシャに渡した。

「リーゼが作った薬じゃないか。あとはドラゴンの片鱗さえあれば完成するんだろ? 早く見つけなきゃ」

「それだよ、ザシャ。ヴェンデルガルトはまだリーゼを狙っている。リーゼが命を落とすように誘導している。俺のためにドラゴンの片鱗を手に入れようと、明日の生贄花嫁の儀式にリーゼがやってくるように」

「なんだって!? そこまであの魔女は考えているのか!?」

「だから手を打っておいた。決してリーゼが明日この森に来られないように。今日の夜から丸二日間、眠り続ける薬を秘かにフリッツに渡してリーゼに服用させるよう頼んでおいた」

「それなら安心だね。今頃リーゼはぐっすりのはず。明日やってくることはない」

「だといいが。一応リーゼに薬品の耐性がある場合でも効く強めの薬を渡したが、最後まで油断はできない。何せあの娘はいつも俺の想像を超えてくる。しかし全てが終わったその暁には、俺は必ずリーゼと結婚す……」

急に咳き込んだカミルは口を手で押さえるとまた吐血した。

「カミル! もう限界だよ! このままだと本当に死んでしまう!」

泣き出したザシャの頭をカミルはくしゃっと撫でた。

「泣くな、ザシャ。俺はリーゼがいなければ疾うに死んでいた。だからこそ、この命を賭してリーゼとこの森を護る。それがヴォルフ家当主の責務。お前もしっかり頼むぞ」

「カミル……」

カミルの胸に額を当てて泣くザシャの背中をポンポンと叩きながら、カミルはなんとしてでも明日までは生き延びると決意した。