「リーゼはこの城にいる限り、絶対に自分が生贄花嫁になるんだって言い張って聞かないもんね」

「でも大公国に帰してもイルメラがいたのではまた命を狙われるかもしれない。だからイルメラを花嫁候補としてわざとこの城に呼んだ。イルメラ母娘からリーゼを護るために」

「まさかカミルと結婚するために、許嫁のフリッツとリーゼが結婚できるようリーゼの瞳の秘密を自分たちから暴露してくるとは思わなかったよ」

「まあな。ベルタは召使長のマルゴットに脅迫されていたとまるで被害者のような口振りだったが、実際はリーゼの瞳に薬品をかけたのは当時召使だったベルタだ。それも故意に」

「マルゴットの突然死もベルタの仕業……」

「ああ」

カミルのイルメラ母娘に対する嫌悪感は最大値を超えていた。しかし、今取り逃がすわけにはいかない。

だから疑われないよう愛しているフリをして、苦痛でしかないキスも耐えた。蛇のようなしつこいディープキスでさえ。
 
なぜなら生まれてから現在に至るまでのリーゼに対するすべての残酷な悪行の報復を、あんな奴らにさえ慈悲深いリーゼの代わりにやってやらなければならないから。

「あの母娘の邪悪さを白日の下に晒し、全ての報いを受けさせる。そのためならあの娘に甘い言葉も抱擁も嘘の口づけだって、何だってしてやるさ」

「でもリーゼが無事に大公国に戻れたのはよかったけど、フリッツと婚約してしまうなんて」

「仕方ない。あの疑い深いイルメラの母親に先手を打たれてしまった。さすが黒蛇筋の女だよ。本来は生贄花嫁の儀式が終わったらすぐにリーゼを迎えに行って結婚するつもりだったのに。こちらが先にイルメラと婚約せざるを得なくなった」