「そうか」

イルメラはカミルの上に跨って馬乗りになると、漆黒の瞳でカミルの顔を覗き込んだ。

「ああ、なんて美しいの。あたしの愛しい青い瞳の人。こんな美しい人があたしだけのものなんて。結婚式が楽しみで待ち切れない」

キスしようとしてきたイルメラを、カミルは顔を背けて避けた。

「せっかく塗った口紅が落ちるぞ」

「平気。また塗ればいいもの」

イルメラがカミルにキスするとカミルもそれに応えた。イルメラが舌を入れる。音を立てて濃厚なキスをする二人に耐えきれなくなったのだろう、ラーラが泣きそうな顔をして部屋から出て行った。

「呆れてラーラが出て行ってしまったぞ」

カミルが口紅の付いた唇を手の甲で拭いながら言った。

「いいの。たぶんザシャ様とラーラはあたしのことが嫌いだから。でもあたしはカミル様がいるだけでいい。その青い瞳に見つめられるだけで、天にも昇る気持ちになっちゃうの。でもリーゼがいた時は見向きもしてくれなかったのに。なぜ?」

「あの娘はただの生贄花嫁だ。逃げられると困るから気を引いていた。新しい生贄が見つかった今、もうそんな必要もない」

「正直に言うとあたし、お母様がカミル様に今すぐ婚約しないならあたしを大公国に戻すよう言ってきた時、カミル様が婚約してくれるって思ってなかった」

「……帰したく、なかったから……」

イルメラがカミルに更に強く抱きつく。

「愛されてるってわかって嬉しい。それなのに、どうして抱いてくれないの?」

「前にも言ったはずだ。すべては明日の生贄花嫁の儀式が終わってからだ」

「いよいよ明日ね。そのあとが本当に、楽しみ」

「俺もだよ……」

カミルの胸に頬を埋めたイルメラを両手で抱きながら、カミルはイルメラの肩越しに氷のような冷たい青い瞳で天井をじっと見つめた。