「はい」

部屋の中を見回したカミルは、リーゼを切なそうな目で見つめてきた。

「こんな狭くて暗い部屋に、19年間も幽閉されてきたんだな」

「でも今は、カミル様のおかげでお城の中にお部屋をちゃんと用意してもらってるんです。カミル様のお城に比べたら小さいかもしれないけれど、とっても嬉しいの」

真っ直ぐに見つめてくるカミルの視線に耐えられなくなったリーゼは、机の上に置いていた薬の瓶を手に取った。

「これが狼に姿を変えて身体にかかった負荷を回復する薬です。でもまだ完成してなくて。どうしても手に入らないものがあるから」

「手に入らないもの? 何だ?」

「ドラゴンの片鱗です。カミル様のお城にありますか?」

「いや。さすがにそれはないな」

「そうですか……それがないとこの薬は完成しないんです」

「どうやってこれを作ったんだ?」

「ドラゴンの文字で書いてある本に書いてあったんです」

「ドラゴンの文字の本だと? そんなものどこで手に入れたんだ?」

「ヴェンデルガルトさんから貰ったの」

「何!?」

カミルの表情が緊迫したものに変わった。リーゼはヴェンデルガルトに代わりに読んでくれと頼まれたことを話した。

「駄目だ!」

カミルがリーゼの両肩を掴む。

「絶対に駄目だ。それではまるでヴェンデルガルトの思う壺だ。あの魔女はお前の命を奪おうと誘導しているんだ!」

「あのお婆さんが? なぜ? どうして?」

「いいか、もうこの件に関わるな。その本ももう読むな。もし、お前が命を落とすようなことがあれば俺は……俺は……」