「え?」

「いや、カミル様とイルメラの結婚が決まったからか」

「そんな……」

「ごめん、意地悪な言い方して」

「ううん……」

「でも君が僕との結婚を承諾してくれて本当に嬉しいんだ。僕が君と結婚するのは国のためじゃない。父上のためでもない。僕のためだ。僕は幼い頃から君のことが好きだった。でも僕は君を何度も諦めた」

「……」

「一度目に諦めたのは子どもの頃。イルメラの許嫁になった時。国のため父上のため自分の居場所を作るため。すべては打算だった。二度目に諦めたのは、君がカミル様を好きだとはっきりと僕に言った時」

「あっ……」

「君はそれまで自分の意思をはっきり言うことなど一度もなかった。もう君とカミル様の間に入り込む余地などなくて、僕の恋は終わったと思った。でも今、僕にチャンスが巡って来ている」

フリッツの手がリーゼの頬に触れた。

「三度目は嫌だ。たとえ君が僕のことを好きじゃなくても、誰かを忘れるために僕と結婚するとしても、僕はそれでいい。僕は君が好きだから」

「フリッツ……」

「リーゼ、僕と結婚してください」

「……はい」

フリッツは胸の内ポケットから指輪ケースを取り出すと、リーゼの左手の薬指に婚約指輪を嵌めた。

フリッツに愛おしそうに見つめられ抱き寄せられ、キスされた。でもそれはカミルがくれるキスとは違ってとろけるような甘美なものではなかった。

今までリーゼはフリッツだけには自分の本心を打ち明けることができたが、これからは決してフリッツにも本心は言ってはいけないと思った。