「今宵、この城に二人でやって来て婚約式と祝賀の晩餐会を行う。だからリーゼ、お前はフリッツと結婚式をあげるのだ」

「お父様!」

「今、我が国は危機に面しておる。ウルム王国の北東のゲッシャー国が勢力をあげてきて、今のうちにウルム王国との関係を強固にしておかねばならぬのだ。わかってくれ、リーゼ」

ウルム王国で国王にフリッツが罵られていた時から頭にはあったが、まさかカミルとイルメラがこんなにも早く婚約するなんて! 生贄花嫁の儀式が終わるまでそれはないと思っていたのに……。

しかし、父親の命令を断ることはできない。それにカミルはイルメラと婚約したのだから……。

「承知いたしました。お父様」

「不甲斐ない父ですまぬ」

「いいえ。お父様には感謝しかありません。これまでもこれからも」

「リーゼ」

大公はリーゼを抱きしめた。父親の温かさを感じながら頭の中は、イルメラのものになってしまうカミルのことばかりだった。

自室に戻りベッドに倒れ込む。カミルとイルメラの婚約という現実を突きつけられて辛かった。

今夜、あんなに会いたいと思っていたカミルに会えるのに、それがイルメラとの婚約式だなんて。二人が見つめ合い微笑み合う所を目の当たりにして、平然としていられるだろうか? イルメラにちゃんと笑顔でおめでとうって祝ってあげられるだろうか?

リーゼが今にも泣きそうになって打ちひしがれていると、フリッツがやって来た。

「大公様から聞いたよ。僕との結婚を承諾してくれたって」

「うん」

「ありがとう、僕のために。僕が父上に怒鳴られるのを聞いて同情してくれたんでしょ? それとも大公様に泣きつかれた?」