リーゼはカミルがあの嵐の夜、自分のために狼の姿になって探しにきてくれたことを思い出した。カミルは気にするなと言ったが、きっとカミルの身体にも負荷がかかり深く傷付いたはずだ。そして寿命も……。

元々薬草の知識があるリーゼには薬品の生成はできそうだった。薬草や鉱物、生物の血肉など名前や配合量を決して間違えないように何度も辞書を確認した。

しかしひとつだけ手に入らないものがあった。それはドラゴンの片鱗だった。

今はもうドラゴンはこの世界に現れない。どこに行けば入手することができるだろうか? 歴史あるカミルの城にならありそうだがもう行くことはできない。リーゼは引き続き本の解読に専念した。

そして、122年に一度の紅の月の夜の生贄花嫁の儀式まであと3日となった十三夜月の日。

朝リーゼが自室から出ると、城の中の召使たちがてんやわんやの大騒ぎをしている。駆け回っている召使の一人に聞いてみると、急遽今日の夜重要な客が来ることになり、盛大な晩餐会が開かれるためその準備で忙しいという。

すると父親のケンプテン大公の執事に呼ばれたリーゼは、大公の執務室へと向かった。

「お父様、何か御用ですか?」

「リーゼよ、わしのかわいそうで可愛い娘。お前には今まで理不尽な苦労ばかりかけて本当に申し訳なく思っている」

「そんなことないわ。お父様には感謝しています」

「慈悲深い娘よ。その娘に、わしはまた人生の自由を奪おうとしている」

「どういうことですか?」

「イルメラとカミルの結婚が決まった。今夜、婚約する」

「えっ!」

頭の中が真っ白になって息ができない。本当に? こんなにも早く? 誰か嘘だと言って!