大公の城の謁見の間で、リーゼは左目を包帯で隠したまま花婿が現れるのを待っていた。

まさかイルメラの結婚式で着るために作っていたドレスを自らの結婚で着ることになるとは。

ドレスを着てはじめて人前に出る機会が、生贄花嫁として自分を迎えに来る怖ろしくて醜い狼筋の男を迎える時になってしまうとは。

この結婚に悲しんで反対してくれたのはフリッツだけだった。

だが大公国が攻められるわけにはいかない。

フリッツの反対は勿論大公によって却下された。

しかしこれで良かったのだ。

呪われし子としてこのまま一生召使として監禁塔で幽閉されて暮らすより、たとえ狼筋の男の生贄花嫁だとしても父親の大公や国民のために死んでいける方がきっと良いに違いない。

大公、ベルタ、イルメラ、フリッツをはじめ大勢の家臣や家来たちが狼筋の男が現れるのを待つ中、客人を知らせる羊の角のホーンの音が謁見の間に鳴り響いた。

「シュヴァルツヴァルト・黒い森の正統管理者の一人、カミル七世・フォン・ヴォルフ様の御到着!」

広間にいるすべての人々に緊張が走る。

何しろここにいる誰もが噂で聞いているだけで、黒い森の管理者である狼筋の男の姿を見たことがないのだから。

どれだけ怖ろしくて醜いのだろうか!?

完全武装した騎士たちに囲まれて狼筋の男は謁見の間に入って来た。

囲まれているからまだその姿を見ることはできない。

獣の臭いが充満するであろうと思われていた広間は、清々しい爽やかな森の香りに包まれた。

高座に鎮座する大公の前まで来ると騎士たちの囲いが解かれ、とうとう狼筋の男が姿を現した。

その男の姿に人々は息を呑み目を見張った。