「正直言うとね、僕はほっとしてるんだ。君が生贄花嫁にならずにさらには、正当な第一公女として戻ってくることができたんだから」

「ありがとう、フリッツ」

リーゼはこの時、フリッツと結婚することが条件だったことを思い出した。そうじゃないとイルメラがカミルと結婚したらフリッツが大公国を継承できなくなるから。カミルのことばかり考えていてフリッツとの結婚のことは後回しにしていた。しかしフリッツはそのことには触れてこなかった。

「せっかく君が帰って来たからゆっくりいろいろ話したいけれど、今故郷のウルム王国の周辺が騒がしくてね。今日の夜に一時帰国するよ」

「そう、それは大変ね」

「ここで何してたの? 早速読書?」

リーゼはヴェンデルガルトから貰った本の話をした。

「ドラゴンの文字の辞書か。そういえばウルム王国の図書室で見た覚えがあるよ」

「ほんと!? フリッツが大変な時に申し訳ないんだけど、またこっちに来るときに持って来てもらえないかしら?」

「それでもいいけどもしよかったら、君も一緒にウルム王国へ行ってくれないか? 父上に紹介しておきたいんだ」

どきりとした。フリッツとの結婚が現実味を帯びてきた気がした。しかし断る理由もない。

「ええ、ぜひ。一緒に行かせてもらうわ」

「ほんと!? ありがとう!」

フリッツは嬉しそうにリーゼをハグすると図書室から出て行った。

ウルム王国はケンプテン大公国の東にある国であり、勢力的にはウルム王国の方が圧倒的に強い。だからこそ娘しか生まれなかった大公は、ウルム王国の第三王子であるフリッツを婿養子にすることに承諾した。