塔の最上階の重くて厚い鉄の扉を開けて部屋の中に入る。久しぶりに入ったかつての自室は、カミルの城の広い部屋に慣れていたせいか想像以上に暗くて狭かった。窓は小さくて四角いのがひとつだけ。太陽の光が入らないから石造の壁も床も冷たい。粗末なベッドはカミルの城の天蓋付ベッドの荷物置より小さかった。

生まれた時からここに幽閉されていた。過酷な生活だった。それがすべて嘘だったなんて。

しかしどうしてもイルメラが言ったようなマルゴットのせいだとは思えない。マルゴットはまるで我が子のように慈しみ育ててくれた。たとえ過失をしてしまったとしても忠誠心もあって正直な人だったから、隠そうとせずに大公に真実を話していただろう。

リーゼはこの部屋でよくマルゴットが日記をつけていたことを思い出した。そういえばあの日記はどこへいったのかな? 

城に戻ったリーゼは当時いた召使たちに聞いてみたが、マルゴットの遺品はすべて近隣国に住む妹に返されたとのことだった。リーゼの出生に携わっていて今生きているのは大公妃ベルタだけ。しかしいろいろベルタに詮索するのには抵抗がある。聞いたとしても答えはイルメラが言っていたことと変わりはないだろう。

ヴェンデルガルトから貰った本を持って図書室に行ったリーゼは、ドラゴンの文字の辞書を探してみたが見当たらなかった。きっとカミルの城の図書室ならあるだろうがもう行くことはできない。もう一度隈無く本棚を探していると、突然背後から声を掛けられた。


「お帰りなさいませ。ケンプテン大公国正統第一公女、リーゼ様」

「フリッツ!」

声を掛けてきたのは旅から帰って来たフリッツだった。二人は再会のハグをした。