「ええ」

「その左目、作り物だったんだろ?」

「どうしてそれを?」

「はじめて見た時から気付いてたよ。死の森の薬品で変えられたんだろうってね。あたしだってカミルの7代目だって知ってたよ」

「カミル様が!? 私にはそんなこと一言も……」

「傷つけたくなかったんだろうよ。まあそんなことは知らないさ。ところであんた、カミルの7代目が好きなのかい?」

「……ええ」

「報われなくても7代目のためになら自分の命を捨てられるかい?」

「ええ。構わないわ。たとえカミル様が他の人を好きでも」

「クークック! これは最高におもしろい。じゃああんたにこの本をやろう」

ヴェンデルガルトは着ているローブの中から一冊の古い本を取り出してリーゼに渡した。

「この本は?」

「中を見てごらん」

本の中を見ると書いてあるのは文字というより絵文字のようなものだった。

「あんた、この本が読めるかい?」

「読めないわ。見たこともない字だもの」

「これは、ドラゴンの文字だ」

「ドラゴンの文字!? どうしてこの本を私に?」

「あたしには字が小さくて読めないんだよ。どこかでドラゴンの文字の辞書を手に入れて、あたしの代わりに読んで内容を教えておくれ。どうせこれから毎日暇だろ?」

「じゃあ、やってみますね」

「クークック! なるべく急いで読んでおくれよ。いよいよ122年に一度の紅の月の夜の生贄花嫁の儀式まであと2週間を切った。おっと、あんたは来ちゃいけないよ。あんたはもう全くの部外者なんだから」

「……わかってます」

「じゃあね。必ずその本、読んでおくれよ」

そう言ってヴェンデルガルトは消えてしまった。全くの部外者……たしかにもうカミルとは無関係の人間なのだ。

リーゼは本を持って馬車に乗り込むと、解読はできないが早速ドラゴンの本のページを眺めていった。