「………でっけぇ………」
マップを開き、意気揚々と学校へ向かった私。
正直、ゲームの世界っていうのを忘れていたのもあって。
「こんなクソデカ学校だと思わないじゃん…」
見てるだけで 威圧感が半端ない。
誰だ、この学校の設定したの。
しかも、名前が『私立華恋高等学校』……
学校名に“ 恋 ”って入ってるのが、凄く乙女ゲームっぽく感じる。
お陰で此処がゲームの世界だと改めて認識できた。
「……あれ、リンじゃん っ !」
「えっ?」
いきなり声をかけられ、振り向けば
見たこともないようなイケメンがそこに居た。
リン、とは私のニックネームだ。
ゲームの世界とは言え、名前をイケメンに呼ばれるのは少し恥ずかしかったから。
…とりあえず、この目の前のイケメンは。
明るめの茶髪がよく似合う、快活そうな男の子。
瞳は髪色よりも少し濃いチョコレート色。
スタイルが良く、160cm以上ある私よりも断然高い。
涼やかな吊り目が爽やかさをさらに出している。
…って菜子が言ってたはず。
だからこの子は………
「…おはよ、ユイト、?」
攻略対象その1、【 ユイト 】で間違いない 。
【 ユイト 】は、プレイヤーの幼馴染という設定のイケメンだ。
一見、凄く明るくてプレイヤーに対し好意があるように見える。
しかし、彼は家で虐待に近いものを受けており、人を信用出来ず、明るいフリをして取り繕っている。
なので、この世の誰にも心を開いていないというのだ。
菜子が言うには、『その取り繕った笑顔を取っ払って、心を開けば攻略できる』らしい。
恐らく、1番早く攻略できるタイプのキャラクターだろう。
「おはよっ!…ちょうど会った事だし、一緒に教室まで行かねぇ?」
ユイトは小首を傾げて、うるうるとした瞳と、1番盛れる角度で私を見詰める。
……あざとい。
大半のプレイヤーはこのあざとさに心を撃ち抜かれるのだろうか。
……まぁ、でも好感度を見れば、心は冷める。
何故なら、ユイトが私に対して“15”しか好感をもっていないからだ。
このゲームでは、
−100 〜 −50 嫌い
−49 〜 −1 苦手
0 〜 20 知り合い
21 〜 40 友達
41 〜 50 親友
51 〜 70 好き
71 〜 85 大好き
86 〜 ???
というような分け方らしい。
つまり、ユイトは私の事を知り合い程度にしか思っていないのだ。
友達ですらない。
……悲しすぎる。
だから、このゲームは“どのキャラも攻略不可能な乙女ゲーム”というレッテルが貼られているのだ。
こんなにグラフィックが綺麗でキャラクターが良いのに。
制作会社、なにやってんだ。
……なんか、もう正直攻略とかよりも。
ユイトの本性を見てみたくなった。
「……ユイト、無理に笑顔作んなくても良いよ。」
「…………はっ?」
ユイトは笑顔のまま、少し動揺する。
私に朝からいきなりこんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。
私も、朝から知り合い程度にしか思ってない奴にこんな事言われたらびっくりする。
というか、引く。
それでも、私は止まるつもりはない。
「私ね、そういうのよくわかっちゃうんだよね。ユイト、別に私といても楽しくないでしょ?」
「…そんな事ねぇよ?俺はリンと居れて幸せだから……」
「嘘吐き。………じゃあ、ユイトは私のどこが好きか、言える?」
「……え、っと、それ、は…………………」
……ほら、だんまりだ。
解ってはいたけど、本当に好感度低いんだな。
「……もう解ったから良いよ、無理しないで」
「…………今日のリン、変だよ。どうかしたの?」
探るような目で、ユイトが私を見詰める。
……まぁ、多分今まで私みたいな言動のプレイヤーはあまりいなかっただろうからな。
サーバーかなんかがヒートしてしまうんだろう。
「……何でもないよっ♡学校行こ?」
サーバーが壊れたらマズい、と思って
恐らくこのゲームをプレイした人はみんなしたであろう
ぶりっ子を全力でする。
我ながら気持ち悪いのは重々承知している。
……壊れたら困る。サーバーが。
「………ッぶはッ 笑 いきなりキモい事してんじゃねぇよ 笑」
唖然と私を見詰めていたユイトは、急に爆笑しだした。
さっきよりも口が悪くなっている。
「やあっと、本性曝け出したね」
「あ……っ、」
ヤベ、と口を抑えるももう遅い。
……ユイトは、こんな感じなんだな。
「口悪いじゃん、猫かぶり君。」
「はぁ〜………アンタにバレんの1番面倒なんだけど?」
……思ったより口悪いな?
ユイトはそのまま私の手を掴んで、教室とは逆方向に走り出す。そしてそのまま屋上まで駆け上がった。
「別にチクんないよ。」
「あー!そういう問題じゃねぇんだよ」
ユイトは髪を掻きむしりながら私を見詰める。
「猫被んねぇで喋れる奴、全然いねぇから……、慣れねぇんだよ」
少し耳を赤くしながらユイトは呟く。
………可愛い所もあるじゃないか、こいつ。
「別に、何も気にしないけど。」
「素で喋った女は、アンタが初めてなんだよ」
「ぅわ、私ユイトのハジメテ貰っちゃったんだ」
「キモい言い方すんな、キモい」
「2回もキモいって言うな??泣いちゃうけど」
「キモいモンをキモいって言って何が悪い」
「私、仮にも女子なんだが?」
「アンタは女っつーか、性別無さそう。」
「ガチで泣くけど?」
数分言い合ってると、ユイトがまた吹き出した。
「あー……面白。アンタってこんな奴だったっけ」
「いや、まぁ……私は私ですから…ね、」
そりゃあ、今日からプレイ開始したもんで。
君の知ってる“私”と今の“私”は違うからなぁ、
「……あー、なんかスッキリした!」
「良かったじゃん」
急にユイトは立ち上がって、私を見詰める。
朝会った時とは違う、晴れやかな瞳に、少しドキリとしてしまう。
「俺、アンタ……いや、リンの事、気に入った。」
「………はっ?」
いきなりなんだ。
ピコンッ !
……何、この音?
《 好感度が上がったよ♡ 【ユイト】 16 % 》
え?好感度?
なんで、急に爆上がりして……?
「これから仲良くしよーな、リン チャン ♡」
意地悪そうな笑みを浮かべ、私を見詰める。
……イケメンのこの顔は、ずるい。
……でも、そんな事よりも。
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッ
ピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンッピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコピコピコピコピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ………
………何で?
このゲームは、攻略不可能とか言われてるのに。
《 好感度が上がったよ♡ 【ユイト】 90 % 》
……もう、攻略出来てしまいそうな程
好感度が上がってるの……?



