メリーでハッピーなトゥルーエンドを

     ◇



 ナーバスな心持ちのまま自分の席につく。
 つい何度も郁実の方を窺ってしまった。

 “昨日”と何もかも同じかどうかは確信が持てないけれど、至るところに既視感があった。
 ロック画面に表示される日付、繰り広げられている会話、きっとお弁当のおかずもそう。

 ひとりだけ未来を生きているような気がして、当たり前だったはずの今日に不思議な違和感がある。
 鏡の中の異世界に迷い込んだみたい。

 悪魔がくれた例の砂時計は、いつの間にかポケットに入っていた。
 赤い薔薇は5輪とも潰れることなく綺麗に咲いている。

(……あの道は避けなきゃ)

 砂時計を眺めながら考えた。
 事故に遭うことがないように、トラックに()かれることがないように、別の安全な道から帰ろう。

 そのときだった。
 横からふっと影が落ちてきて、隣の席に誰かが座ったのが分かった。
 思わずそちらを向いて驚く。

「えっ、どうして」

 そこにいたのは、やけに美形なあの悪魔だった。

 けれど、角も翼もなくなっている。
 それに顔立ちは同じながら、いくらかあどけなさを感じさせる雰囲気へと変わっていた。
 まとっているのもなぜか制服だ。

「あー、言ってなかったか。契約したらそいつの近くにいねぇといけない決まりだからな。いまはこの方が都合いいし。俺はおまえのクラスメートになったってわけだ」

「それで人間に化けてるの? でも、その席……」

「俺の席だ。おまえの隣」

 見るからに傲然(ごうぜん)と片肘をつき、彼はそう言ってのける。

 窓際の一番後ろは確かに“昨日”までわたしひとりの席で隣は空いていた。
 机も椅子も置いていなかったはずなのに。

 そもそもどうなっているんだろう?
 いきなりクラスメートだなんて、周囲からすれば不自然じゃないんだろうか。

「安心しろよ。ほかのやつの記憶は俺がいじっといたから」

 わたしの心の内を読んだみたいに、そしてこともなげに悪魔は言う。

「えっ?」

「俺は黒崎(くろさき)御影(みかげ)って名前で、今月はじめに越してきた転校生ってことになってる」