力なくへたり込んでいた花菜は、顔面蒼白のまま彼女の傍らににじり寄った。
案ずるようにその肩を揺するものの、やっぱり彼女は微動だにしない。
……死んでる。
それが“今日”の中で身近なものになってしまった僕は、そのこと自体に驚きはなかった。
花菜が無事だったのは何よりだ。
けれど、花菜の代わりに彼女が死んだ。
驚いているのは、解せないのは、そんな怒涛の展開。
割り切ったはずなのにすっかり動揺していた。
いったい何が起こっているんだろう。
これまではこんなことありえなかった────誰かが花菜の代わりに死ぬなんて。
花菜に張りついていたって守りきれなかったのに、これはどういうことなんだろう。
考えるより先に砂時計を握り締めていた。
流れていく砂を見つめながら自然と力が込もる。
巻き戻すべき……なんだろうか?
結果的に花菜は助かった。
悪魔の言っていたように死ぬのが誰でもいいのなら、あの子のお陰で命拾いしたことになる。
(正直、もう……やり直す必要なんかない)
花菜を救うという目的を果たしたいま、これまで通りの日常に戻って明日を迎えればいいだけ。
あの子には悪いけれど、僕にとっては花菜の方が大事だ。
「おー、よかったな。おまえの願い通り、カナは生き延びたんだ」
いつにも増して暢気な調子で、現れた悪魔が笑う。
手すりに腰を下ろし、長い脚をぶらぶらと投げ出していた。
その下の地面に広がるのはガラスの破片と飛び散った血。
花菜やあの子の姿は集まった人だかりで見えなくなっている。
だけど目に焼きついたさっきの光景は鮮烈で、力なくうつむいてしまった。
「……でも、こんなはずじゃなかった」
「何だそれ、どういう意味だよ?」
非難や呆れではなく、純粋に理解できないといった様子で彼は首を傾げる。
「花菜は助かったけど、これじゃあの子を身代わりにしたようなものだ。喜べないよ。僕も花菜も……そのことを自覚して開き直るなんて無理だ」
仕方がない、花菜だけでも助かってよかった、なんてあまりにも報われない。
この残酷な事実を背負ったまま、前だけ向いて生きてけるほど図々しくなれるわけもない。
「……ったく、欲張りだな。カナも助けたいしあの女が死ぬのも耐えられない? 言ったはずだぞ、マイナスはありえねぇって」
「だとしても、こんなの望んでない!」
悪魔の顔には今度こそ呆れたような色が滲んでいた。
「ばか、そんなのは綺麗ごとなんだよ。おまえ、実際はほっとしただろ? カナが死なずに済んで」
「…………」
「だからさっきためらったんだ。砂時計をひっくり返すかどうか。もう一度やり直せば、今度はまたカナが死んじまうかもしれないって思ったから」



