はっと目が覚めたような心地がした。
確かに花菜しか見ていなくて、随分と視野が狭くなっていたような気がする。
「あいつの死因がぜんぶ、強制的な運命の修正力だと思うか? シナリオが歪んだのはそれだけが理由じゃねぇんだ」
「ちょっと……待って。なに言って……。もう1回言って、もっと分かりやすく」
何を言っているのか、まるきり分からなかったわけじゃない。
正確に言えば、嫌な予感がよぎったせいで頭が理解することを拒んだ。
いくら死因を避けても花菜が必ず亡くなっていたのは、それこそ強制的に運命が修正されているからだと思っていた。
けれど、それだけじゃない……?
脳裏で赤色灯が明滅した。
“昨日”の夜の結末が、鉛みたいに重たくのしかかってくる。
花菜を刺した犯人がいる。
偶然じゃないその出来事を思えば、嫌でも何となく想像がついた。
彼女を守ろうとする僕がいるみたいに、彼女を殺そうと狙っている誰かがいる。
例によって僕の心を見透かしたような悪魔は、わずかに目を細めて言葉を繋いだ。
「事故にしろ殺しにしろ、カナの死に毎回関わってるやつがいる。ひとつ言えるのは、そいつが“鍵”だってことだ」
今回、僕は心を鬼にして花菜に近づきすぎないことに決めた。
これまでみたいに直接的に守ろうとするんじゃなく、少し離れたところから見守る。
彼女を取り巻く状況、人────僕が見えていなかった部分に目を光らせるように。
ほとんどは何の変哲もない日常のワンシーンに過ぎなかった。
普通に授業を受けて、友だちと喋って、昼食をとって、眠い午後をやり過ごして帰路につく。
だけど、異変は突然起こった。
校門へ向かう花菜を2階の渡り廊下から眺めていたときのこと。
「危ない!」
誰かの金切り声にはっと息をのみ、思わず手すりから身を乗り出す。
何事もなく放課後を迎えたことでちょっと気が緩んでいた僕は、衝撃に貫かれて全身が痺れたような気がした。
足を止めた花菜の頭上に、大きなガラス板のようなものが迫ってきている。
たぶん、上階から落ちてきた窓だ。
「花菜……っ」
ここからじゃ庇おうにも間に合わない。
どうすることもできずに立ち尽くしていると、ふいに死角から人影が飛び出してきた。
とっさに花菜を突き飛ばした彼女は、だけど勢い余ってその場に倒れ込む。
みるみる迫ったガラス窓が否応なしに直撃する。
ガシャァン! とけたたましい音が響き渡った。
粉々になったガラスの破片が舞い、地面に叩きつけられて外れたサッシが横たわる。
心臓が暴れ、無意識のうちに呼吸を止めていた。
倒れたまま動かない彼女の肌に浮かび上がる無数の傷と、目を刺すような赤い血。
騒然とする周囲の混乱と比例して、地面の血溜まりが広がっていく。
(どういう、ことだ……?)



