こともなげに頷きが返ってくる。
最初のシナリオでは、花菜は“今日”死ぬ運命だった。
たとえ未来を知っている僕がタイムリープしてその要因を避けたところで、強制的な修正力みたいなものが加わって、結局は無に帰してしまうんだ。
パラレルワールドであるにしろ、ひとつの世界であるにしろ、世界自体は一本の線上にあるわけじゃないのかもしれない。
巻き戻って同じ時点に帰ってきても、僕が行動を変えるごとに分岐していく。
花菜の死を繰り返しているのは、ある意味エンディング回収させられているようなものだと言えた。
もれなくバッドエンド。
だけど花菜を救うには、無数の分岐点から伸びる先にあるかもしれないハッピーエンドを探り当てなければいけないわけだ。
砂時計の薔薇が枯れ果てる前に。
「さて、次はどうする? すべてはおまえ次第だぞ」
そんな悪魔の囁きに、手元の砂時計を見つめた。
さらさらとこぼれ落ちていく砂はまさしく時の不可逆性と流動性を表している。
けれど、ひっくり返すだけでそんな世界の摂理に抗えてしまうなんて妙な感覚がした。
(とにかく、また最初からやり直しだ。でも……)
花菜の存在だけが僕の気力を繋ぎ止めてくれている。
だけどもう正直、心の半分は折れかかっていた。
(どうしたら……)
彼女が死なずに済むのか。
ハッピーエンドにたどり着けるのか。
果たして5回以内のタイムリープで、無限の可能性の中から正しい選択肢だけを選び抜けるのか、ここまで失敗を繰り返してきたことで自信がなくなっていた。
それでも、戻るしかない。
もう一度、花菜の生きている世界へ────。
縋るように目をつむり、僕は砂時計をひっくり返した。
◇
常闇に投げ出されたはずの僕はいつの間にか、再び朝の昇降口に立っていた。
薔薇の花びらが瞼の裏を掠め、崩れ去った世界の破片が一瞬にしてパズルみたいに組み立てられていく。
(……戻った)
顔を上げると、靴箱のそばに“今日”も花菜の姿を見つけた。
だけど、足が動かない。
(一緒に帰ったところで、それも意味ないのかも)
僕の手では守りきれない。
彼女を物理的に死因から遠ざけても、根本的な解決にはならないから。
そのうち靴を履き替えた花菜は、こちらに気づくことなくそのまま廊下を進んで階段を上り始めた。
その後ろ姿を黙って見送る。
もうこの時点で既に小さく分岐しただろう。
結末に影響があるかどうかは分からないけれど。
「あれ、声かけなくていいのか?」
ふっと現れた悪魔に、やわくかぶりを振る。
「……もう分からないんだ。何が正解で何が間違いか、どうすれば花菜を救えるのか」



