僕と別れてから少しして、花菜は突然どこかへ出かけていったらしい。
そして、何者かに刺されて亡くなった。
彼女の母親によると、誰かから連絡をもらって出ていったという。
いったい誰から?
そいつに呼び出されたんだろうか。
僕の言葉を反故にしてまで優先させるほどの相手?
それとも、都合よくつけ込まれた?
もし騙されてふらっと家を出ていったなら、相手は犯人以外ありえない。
「あーあ、惜しかったな。まあ、よく粘った方だろ」
ふいに現れた悪魔は、そう言いながらも楽しげな口調を崩さなかった。
思わず拳を握り締める。
「……どういうこと? 何で花菜は殺された?」
「いまさらなに言ってんだ。死因は決まってねぇ、目を離すと死ぬ……そう気づいたんじゃなかったか?」
「だとしても納得できない。通り魔ならともかく、花菜を刺した犯人はもともと花菜を狙ってたんだ!」
目の奥が痛くなった。
泣きそうなのは、花菜が死んで悲しいからか救えなくて悔しいからか、あるいは突如として割り込んできた“犯人”の不穏な黒い影に腹が立つからか。
悪魔はやっぱり愉快そうに、にやりと口角を上げる。
「へぇ、なかなか鋭いな。もう気づくなんて」
「え……?」
「そんな賢いおまえなら、このことにも気づいてるんじゃねぇか? ただ死因を避けるだけじゃカナを救うことはできないって」
心臓をつままれたような心地がした。
確かに薄々感じてはいた────線路を避けても、火事を避けても、別の不幸が降りかかって花菜をあの世へ攫っていく。
今回そうだったみたいに。
本質を見通そうとすることは無駄だと言いながら、ふいに誘ってくる不条理な死から逃げることも無意味だと、この悪魔は望みをへし折ってきたわけだ。
それじゃ花菜を救うことに繋がらない……?
(……何がしたいんだ)
こいつは助言したり追い詰めてきたり、どこまでも面白がっているようにしか見えない。
砂時計なんて希望をちらつかせて、右往左往する僕を嘲笑っている。
「死因を避けることは、未来を変えることとイコールにはなりえねぇ。つまりはあいつが死ぬって結末を変えることには、な」
「だから……別の要因で命を落とす。最初のシナリオ通りに。そういうこと?」
「ああ、まさに」



