何とか駅をやり過ごし、日が暮れてから近場のファミレスで夕食をとった。
火事が起きた正確なタイミングは、いまとなっては分からない。
既にやり過ごせていればいいものの、これから起こってもおかしくはなかった。
「何か久しぶりだなぁ、郁実とご飯食べたの」
すっかり暗くなった帰り道、ふと花菜が言う。
「でも、今日はどうしたの? 何かいつもとちがうっていうか。今朝もびっくりしたんだよ。急にあんなこと……」
「……ごめん、嫌がってたのに」
「嫌がってたわけじゃないよ! ただ、本当にびっくりして」
彼女は慌てるものの、拒絶されていなかったことに少しほっとした。
“幼なじみ”の距離は近い。
だからこそ、その境界線が曖昧にぼやけている。
越えてしまったら戻れないことを知っているから、この気持ちを自覚してからはいっそう慎重になった。
だけど、今朝の行動は衝動的だった。
説明や言い訳なんてできない。
「気にしないで、忘れてくれていいよ。ちょっと余裕なくしてたみたい」
苦く笑いながら都合のいいセリフを口にする。
必死で保ってきた距離感と守り続けてきた関係を、自分から壊しかねないところだった。
「えっ、何それ? 意味なんてないってこと?」
「……うん」
嘘をついた。
花菜に対して意味のないことなんてひとつも言わないし、しないのに。
でも、僕たちの関係を壊さないためには頷くしかない。
意味を含ませたら花菜に気づかれてしまう。
僕の想いも、その深さも、彼女の枷になって欲しくないのに。
「……なんだ。やっぱりそうなんだ」
花菜も苦い笑いを浮かべた。
ちょっと残念そうに見えるのは、きっと割り切れない僕の勘違いだろう。
「帰ろう。もう暗いし、家まで送る」
そうして花菜を無事家まで送り届け、家にいた彼女の母親に引き渡した。
少なくとも家に入るまではちゃんとこの目で見届けたし、再三釘を刺しておいた。
家から出ないように。
ひとりにならないように。
────だけど。
それから数時間後、花菜が亡くなったことを知った。
“今日”もまた、救えなかった。
(何で)
彼女の家の近くに集まったパトカーや救急車、野次馬たちを遠巻きに眺める。
赤色灯がちかちか脳裏を焼いて、サイレンやざわめきで目眩がした。
(何で……)



