メリーでハッピーなトゥルーエンドを

     ◇



 世界がまるごと崩れ落ち、延々と落下していたはずの僕は気づけば学校の昇降口に立っていた。

 朝の光で満たされているけれど、新鮮さは感じない。
 何度か味わった空気感が漂っていた。

(……戻った)

 はら、と目の前を赤黒い薔薇の花びらが舞う幻を見た。
 その先に花菜の姿を捉え、はっと慌てて駆け寄る。

「花菜」

「あ、おはよう……って、どうしたの? 郁実」

 隠しきれなかった不安と恐怖が表情に出ていたのかもしれない。
 僕の顔を見て不思議そうに首を傾げる彼女を、思わず引き寄せて腕の中におさめていた。

「えっ」

 甘くて優しいにおいもあたたかい体温も、花菜の存在証明みたいでようやく実感が追いついてくる。
 彼女が死んだこと、そしていま確かにここで生きていること。

 “昨日”もどんなに怖くて苦しい思いをしたのか、想像するとたまらなくなる。

 時間が戻ってその事実ごとなくなったとしても、“昨日”の世界線はどこかに存在しているような気がした。

 砂時計を使うと世界が壊れ、時間が巻き戻る。
 だけど本当は別の世界線、いわゆるパラレルワールドへ移動しているだけだとしたら────。

 失敗したらいまいる世界を崩し、並行世界に飛んでやり直す。
 なんて、まるで運命をリセマラしているみたいだ。

 本当のところは分からない。
 当初の認識通り世界はひとつしかなくて、同じ世界線の時間軸を移動しているだけかもしれないけれど。

 いずれにしても、花菜を死なせてしまった結果は僕の記憶に残り続けている。

 その痛みに耐え抜くことも、あの悪魔が課した試練と言えた。
 砂時計の代償は魂だけじゃない。

「い、郁実? どうしたの、こんな……」

「今日、一緒に帰ろう。夜ご飯も花菜と食べて、なるべく長く過ごしたい。いい?」

 腕にいっそう力を込めた。
 戸惑ったように身じろぎする彼女を閉じ込めたまま離さないように。

 家に帰るには電車に乗らないといけないから、駅は避けられない。
 それでも、最大限警戒していれば“昨日”みたいに難を逃れられると分かった。

 火事も同じで、場所かタイミングがちがえば免れられるはず。
 もしくは花菜をひとりにしなければいいはずだ。

 “今日”こそは守りきらないと。
 もう、不条理な死の犠牲になんかさせない。