メリーでハッピーなトゥルーエンドを


 あふれそうになる感情をおさえ込むように息をつき、唇を噛み締めた。
 どうにか平静を装う。

「……死因は決まってないんだ」

「まあ、そうだな。目を離すと死ぬ、そんな感じだったろ」

「じゃあ試してくしかないってこと? 何で死ぬのか、どうやったら救えるのかも」

「どうだろうな。いくら巻き戻せるったって、それだと5回じゃ足りなくなるだろ」

 悪魔は人の気も知らないで、面白がるように口角を上げる。
 試しているのは彼自身のようだった。
 それなら試されているのは、僕?

 タイムリープや花菜の死の本質を見抜かないと、運命を変えるなんて大それたことはできないのかもしれない。

「さて、そろそろ砂がぜんぶ落ちるぞ」

 そんな言葉に焦燥(しょうそう)を覚え、ポケットを探ると慌てて砂時計を取り出した。
 果たして上側の砂はほんのわずかしか残っていない。
 たぶん、ぜんぶ落ちてしまったら砂時計は効果を失うのだろう。

「とにかく戻らないと……」

「ああ、救えるもんも救えなくなる。だけどな、イクミ」

 悪魔は軽やかな身のこなしで窓枠から降り、目の前に歩み寄ってきた。

「“本質”なんて追ったって仕方ねぇ。死は不条理なんだよ。誰に降りかかる死も等しく、な」

 その赤い瞳を見ていると、胸の奥がざわめく気がした。
 夜の森で(こずえ)が揺れるみたいな、不穏な胸騒ぎを覚える。

「なら、僕にどうしろって……」

「目的を見失うな。それだけだ」

 黒い手袋をつけた指先を向けられ、はたと我に返った。
 不安と絶望に飲み込まれそうになっていたところ、闇に覆われる寸前で立ち返る。

 そうだ、いくらこじれたって僕の目的はただひとつ。
 花菜を救うことだ。────“死”から。残酷な運命から。

 僕たちの紡いできた時間を無視して、彼女から“明日”を奪って、永遠に埋まらない孤独を僕に押しつける、そんな不条理な死なんか認めない。
 勝手に死に(いざな)われるなんて許さない。

(……諦めるな)

 きっと、それだけが希望だ。
 そう自分に言い聞かせながら、握り締めていた砂時計をひっくり返した。