「びっくりした。な、何かと思った」
戸惑う割に嫌がる素振りはなかった。
そのことにほっとして、いくらか心がほどけていく。
「わ、わたし先に行くね! またあとで」
ぱたぱたと慌ただしく駆けていく花菜の後ろ姿を見送り、思わず小さく笑った。
一瞬“幼なじみ”のその先を想像しかけて、かぶりを振る。
勘違いしちゃいけない。ぜんぶ幼なじみだからこそ、なんだから。
一番近くて一番遠いところにいる。
「……おいおい、朝から見せつけてくれるなよな、まったく」
あちー、と続けられた声は聞き慣れないのに聞き覚えがあった。
振り向いた先にいたのは、夢の中で“悪魔”だと名乗ったあいつだった。
「夢なんかじゃねぇぞ。思い出せ、あれは実際に起こった現実の話だ。いまのおまえにとっては未来の可能性だな」
心の中を見透かすようなもの言いにはっと息をのみ、とっさにポケットを探った。
指先に触れる冷たい感触。
薔薇の咲く砂時計だった。
「これ……」
────そうだ、そうだった。
あれは白昼夢でも予知夢でも悪夢でもない。
確かに“昨日”花菜が死んで、それからこの悪魔が現れて、砂時計をくれたんだ。
本当に時間が巻き戻っている。
彼も砂時計も、紛れもなく本物だ。
「時間は限られてる。もう一度言おうか。“今日”の結末はおまえ次第だぞ」
その言葉に気を引き締めた。
花菜を守らないと……あんな残酷な終わり方、絶対に繰り返すわけにいかない。
彼女を救えるのは僕しかいない。
「いい表情すんじゃん。楽しませてくれそうだな」
「……砂時計には感謝しても、きみにお礼は言わなくていいよね」
「ふん、好きにしろよ。俺はただ、最後にうまい魂さえ食らえればそれでいい」
彼女に遅れて教室へ着くなり、急いでその席に向かう。
“昨日”命を落とした放課後まではまだまだ時間があるものの、気が急いて仕方なかった。
「花菜、今日一緒に帰ろう」
「え? 全然いいけど……珍しいね」
顔を上げた花菜はシャーペンを動かす手を止め、意外そうにそう言った。
いつもは約束なんてわざわざ取りつけない。
“昨日”もたまたまタイミングが合ったから一緒に帰路についたのだった。
だけど“今日”はそうもいかない。
片時も目を離したくない。



