目を逸らさないまま言葉を繋ぐ。
「長く一緒にいるからそれなりに分かってはいるけど……それでもまだ、何か届かない気がするから」
「それって、どういう意味?」
聞かずにはいられなかった。
わたしの予感がうぬぼれた勘違いじゃないことを無意識のうちに願って、期待していた。
「……分からないままでいいよ。分からないふりをしてるならそれでも。たぶん、その方がいい」
だけど、郁実はそう言って口をつぐんでしまう。
何だか遠ざかったように感じた。
真意をぼかして遠慮するのは優しさかもしれないけれど、そうだとしても。
「でも、じゃあ“伝えたいこと”って……」
「伝わったでしょ?」
心臓がどきりと跳ねる。
瞳が揺れるのを自覚した。
(じゃあ、まさか本当に勘違いじゃないの……?)
郁実はいたずらっぽく笑ったものの、すぐに儚いようなやわい笑みに戻る。
「忘れて。やっぱり……あ、青になった」
つられて信号機を見やっている間に、目の前を彼が横切っていく。
思わずむっとした。
そこまで言っておいて“忘れて”なんて、そんなの反則だ。
いままで曖昧に誤魔化してきた自分の気持ちが形作られようとしていたのに、そうさせたのに、そんなふうに背を向けられたらわたしはどうすればいいの?
「ち、ちょっと待って────」
追いかけるように足を踏み出すと、郁実が振り向いた。
横断歩道を渡りきって待ってくれている。
慌てて駆け出そうとした瞬間、耳をつんざくようなクラクションの音が突然響き渡った。
「……っ」
反射的に足が止まる。
心臓が縮み上がる。
顔を上げると、怪物みたいな大型トラックがすぐ目の前まで迫ってきていた。
「花菜!」
焦ったような郁実の声が聞こえたと思ったら、わたしの身体は地面に倒れ込んでいた。
一拍遅れて感覚が戻ってくる。
打ちつけたてのひらや膝の痛みと、突き飛ばされた肩のあたりに残る衝撃。
その直後、ブレーキが激しく鳴いた。
どん、と鈍い音がしたのを最後に、嵐みたいな時間が終わる。
「え……?」
心臓がばくばく暴れ、両手は震えていた。
急停止したトラックと、みるみる地面に広がっていく血溜まり。
立ち上がることもできないで、そんな光景を呆然と眺める。
「う、そ……」



