「ねぇ……何かあった?」
「僕? それはこっちのセリフだけど」
困ったようなその笑い方も、どうしてかわたしの違和感に拍車をかけた。
直感は間違っていないと思う。
だけど、うまく言葉にできない。
少なくとも、このまま帰るわけにはいかなかった。
無視できないほど膨らんだ違和感も胸騒ぎも、きっと警鐘だろうから。
(たぶん、このまま帰ったら……また郁実が死ぬ)
展開が変わっても、きっとバッドエンドのまま。
何もしていないのに結末だけ覆るなんて都合のいい話はないはず。
(やっぱり、あの子と話さないと)
既に知らない“今日”へと迷い込んだいま、暢気に構えていられなくなった。
このままだと、郁実が亡くなるだけじゃ済まないかもしれない。
それに、郁実が毎回わたしを庇うことで死んでしまうのだとしたら、わたしが危険な目に遭わなければいいということなんじゃないだろうか。
そのためにリスクはひとつでも潰しておきたい。
もしかしたら、彼女こそが“今日”のシナリオを壊す鍵かもしれないのだから。
わたしが殺されている場合じゃない。
「ごめん、郁実。ちょっと忘れものしちゃった。取りに行ってくるね」
「え? じゃあ、僕も────」
「ううん、ここで待ってて。絶対動かないでね!」
戸惑った様子の彼を置いて、わたしは階段を駆け上がっていった。
ひとまず柊先輩に会おうと彼の教室を目指す。
(まだ学校にいるよね?)
少なくともわたしが昇降口にいる間は姿を見ていないし、残っている可能性の方が高い。
足を速めつつ、何気なく教室を覗いていったそのとき。
空き教室で思わぬものを目にして慌てて立ち止まった。
「え、何……?」
何歩か引き返し、扉の小窓から中を見る。
教卓の陰から誰かの脚が伸びていた。
姿は見えないけれど、座り込むような形だ。
靴下に上履きというところからしても女子生徒だと分かる。
「だ、大丈夫ですか?」
困惑しながらも扉を開けると教室へ飛び込んだ。
彼女のもとに駆け寄って屈んだ瞬間、驚いてはっと息をのむ。
(この子……)



