メリーでハッピーなトゥルーエンドを


 何言か言葉を交わしたかと思えば、ふたりは一緒に昇降口から出ていった。
 並んで歩く後ろ姿を眺めると、図らずも心の表面がざらつく。

(……なんだ)

 やっぱり、ととっさに思ってしまった。
 わたしだけが“特別”なわけじゃない。

 きっと、わたしに構うのは気まぐれで、からかっているだけなんだろう。
 なんてことない言葉に動揺しちゃって恥ずかしい。

「ごめん、花菜。遅くなって」

「あ、ううん!」

 思わずうつむきかけたとき、ちょうど郁実が現れた。

「帰ろっか。どっか寄ってく?」

 つい気軽に提案してから、ふと今朝のことを思い出す。
 いつにない彼の様子を思うと、郁実に合わせる方がいいような気がした。

「いいよ、とりあえず出よう」

 穏やかに顔を(ほころ)ばせた彼に続いて校舎を出る。
 普段と同じように他愛もない話をしていると、いつの間にか校門を潜っていた。

「……でね、中間の結果でお母さんに叱られて喧嘩になっちゃって。そろそろ受験のことも考えないといけないのかなぁって思ったら、何か気が重いし」

 ため息をこぼしてから、はっと我に返る。
 彼に合わせようと思ったところだったのに、気づいたら話し続けていた。

「ごめん、わたしばっか話して! 伝えたいことがあるって言ったのは郁実なのに」

「うん、でもいいよ。花菜の話聞くの楽しいし」

 郁実はその言葉通り、緩やかに笑った。

「本当?」

「本当。花菜と話すのは気楽でいいし、嬉しいから。……いや、お母さんとの喧嘩を面白がってるわけじゃなくて」

「それは分かってるけど……。嬉しいって何が?」

 首を傾げると、彼が足を止める。
 ちょうど横断歩道の信号が点滅して赤に変わったところだった。

「僕、あんまり話すの得意じゃないんだけど……花菜は何かほかの人とはちがうって言うか。色々聞いてくれるから気楽なのかな。それが嬉しいのかも。うまく言えないけど」

 懸命に紡がれた言葉はやっぱり、優しい響きをしていた。
 本心だと分かるから何だか照れくさい。

「それは、だって気になるから……。郁実のこと聞きたいんだよ」

「僕も」

 照れ隠しのつもりが、ほとんど隠せないで率直(そっちょく)な気持ちがこぼれた。

 冗談で済ませる気はないみたい。
 郁実はわたしの正面に回って、柔らかく微笑んだ。

「知って欲しいし、知りたい」