(その間に見つけないと。シナリオを壊してひっくり返す方法)
郁実の命を繋いで時間を稼ぐんだ。
あるいは今度こそ一時も目を離さなければ、ふたりで“明日”を迎えられるかもしれない。
延命作戦が功を奏したのか、無事に駅へとたどり着くことができた。
途中でトラックが突っ込んでくることも、鉄骨が降ってくることも、郁実が血を吐くこともなく。
ホームで足を止めた瞬間、深々と息をつく。
神経を尖らせて張り詰めていたせいで、何だかどっと疲れてしまった。
(でも、無駄ではないのかも)
たとえ小手先だとしても、道を変えたり行動を変えたりするのは無意味じゃない。
未来を知っていることは、郁実を守るのにやっぱり役立つ。
“今日”こうして、駅までたどり着けているのがその証拠なんじゃないだろうか。
「何か、不思議な感じ。同じ場所に帰るって新鮮だね」
ふと、郁実がそう言って小さく笑った。
「そうだね。こんなことは初めて」
「うん。……花菜の家、懐かしいな。覚えてるかな」
「小学生の頃は毎日お互いの家を行き来してたのにね」
学校が終わると急いで帰って、玄関にランドセルを放ってはすぐに飛び出していった。
郁実がうちに来るときも、お菓子を買いにいくためのお小遣いを握り締めて迎えにいっていたことを思い出す。
わくわくして、待ちきれなくて。
「でも、花菜は僕の家に来るといつも寝てた」
「それは、だっていつも郁実が“宿題終わるまで待ってて”って。それに、あんなにふわふわのクッションがあったら……」
「あれは花菜が持ってきてそのまま置いてったんでしょ」
「一緒にクレーンゲームで取ったじゃん。わたしたちのだよ」
休みの日、自転車で少し遠出して一緒にショッピングモールへ行ったことがあった。
その中にあったゲームセンターで、クレーンゲームの景品になっているうさぎ型の白いクッションを見つけた。
ふわふわの毛並みが心地よさそうで、抱き締めてみたくて、ひと目見て「取りたい」と言ったのがわたしだった。
お互いにお小遣いを出し合って何度も何度も挑んだ。
おやつを買うお金はなくなってしまったけれど、最終的に郁実が取ってくれたのだ。
「でも、あんなに気に入ってたのにどうして僕の部屋に置いてったの?」
答えようととっさに開きかけた口を一度つぐむ。
目を落とし、別の言葉を返した。
「……郁実が宿題するの遅いから」
「僕のせい? やっぱり寝るためだったんだ」
肩をすくめて彼は苦笑する。
嘘だよ、と心の中で唱えた。
(あれはね、口実だったの)



