強くそう言い返すと、御影はどこか意外そうに目を見張った。
心が読めるくせに分からないふりでもしていたのだろうか。
それとも、わたしを試したのだろうか。
いずれにしても満足気だった。
ふっと静かに笑みをたたえた彼の瞳がきらめく。
「気に入った。……さすが見応えがあって面白ぇな」
軽やかに机から下りると、ゆったりと歩み寄ってくる。
そのうち引き締められた真剣な表情に、自然とわたしも背筋が伸びた。
「いいか、闇雲に守ろうったってうまくはいかない」
淡々と言った御影は、それから気だるげな調子で続ける。
「因果関係があるって言ったろ。結果だけねじ曲げても意味ねぇんだよ」
「……それって、郁実を守ろうと道を変えたり工事現場を避けたりしても無駄、ってこと?」
「そういうことだ。シナリオそのものを根本から変えなきゃ、何回繰り返しても同じ結末をたどっちまうんだよ。別の形ででもな」
ずっと胸に巣食っていた、違和感という名のしこりが溶け去り腑に落ちた。
特に理解不能だったあの郁実の吐血も、じゃあ、もしかしたら何か超自然的な力が働いたのかもしれない。
突然、彼の身体に降って湧いた病魔が急速にその命を蝕んだ────。
信じがたいけれど、それは“昨日”よぎった可能性のひとつでもあった。
わたしは事故を避けようと、郁実を死から遠ざけようと行動を変えた。
だけど結末は絶対的で、本来の運命をたどるよう強制的にレールに戻された。
つまり、彼が亡くなるシナリオのもと“今日”が廻っている。
事故を避けたって、結局は別の要因で命を落とす。
わたしが行動を変えても救えるわけじゃなく、ただ、彼の死因が変わるだけなのかもしれない。
────結末を変えられる可能性だ。運命を変えて、そいつを救ってみろよ。
最初に御影が言っていた言葉の意味も、だんだんと浸透してきた。
同時に、自分がどれほど途方もないことをしようとしているのかを理解する。
(全然、簡単じゃない……)
重く果てしない使命を自覚する。
“昨日”までの慢心を悔いた。
シナリオを壊して、運命を根本からねじ曲げるくらいじゃなきゃ、郁実を救うことはできないんだ。
「じゃあ……どうすればいいの? わたし、何をすれば……」
「運命を変える。そう言ってんだろ」
こともなげに言い放った御影の声が朗々と響く。
けれど、目指すべき方向どころか、たどるべき道をすっかり見失ったいま、暗闇の中にひとり放り出されたような気分だった。



