さっときびすを返すと、振り向かずに教室を目指した。
席につくなり文字通り頭を抱えてしまう。
(どうすればいいんだろう? どうすれば郁実を守れるの……?)
違和感だらけ、分からないことだらけで、自分の進むべき方向を完全に見失っていた。
少なくとも確かなのは、最初にトラックが突っ込んできたのも“昨日”工事現場の足場が崩落したのも、偶然ではないということ。
死に誘われている郁実は、何もしなければ必ず命を落としてしまう。
(それと……)
最後に御影の言ったことが気になっていた。
『ものごとには必ず因果関係がある。“昨日”と“今日”で変わったことは? まさか、その変化がぜんぶ偶然だなんて暢気なこと考えてねぇよな』
『何が言いたいの……?』
『5回なんてあっという間だぞ。いいか? 本気で救いてぇなら、変化を見逃さねぇことだ』
あれは、意地の悪い悪魔なりの助言だったのだろう。
だけど、変化って何のことだろう?
彼の言う通りそれを見逃さなければ、郁実を救うことに繋がるのだろうか。
(……よし)
糸口が見つからないのなら、ひとまずそこから動くしかない。
“昨日”と“今日”で変わったこと────まずはそれを考えてみよう。
休み時間になると席を立った。
変化とやらを探して校内のあちこちを歩き回る。
教室内はもう何度も見た光景だし、今朝の郁実の言動もそうだった。
たぶん、わたしが自ら動かない限り新鮮な出来事は起こりえない。
ただ同じ一日をなぞっているだけ。
(それなのに“変化”なんてあるの?)
いったい何が変わっているんだろう。
わたしが気づいていないのか、それとも見逃しているのかな。
“今日”と“昨日”とで何がちがうのか、いまのところまったく分からない。
間違い探しをしている気分だ。
そんなことを考えながら何気なく振り向けた視線の先で、ふと柊先輩の姿を捉えた。
“今日”はあのショートカットの女の子と一緒みたい。
そこで、いつの間にか1年生のフロアにたどり着いていたことに気づく。
(前は放課後に話してたけど……このタイミングでも一緒にいたんだ)
そのとき、あまりに見つめすぎたのか、ふいにこちらを向いた彼と目が合ってしまう。
慌てて逸らしたけれど間に合わなかった。
(しまった……)
逃げるようにきびすを返した瞬間、聞き慣れたその声が背中に届く。
「待って、春野さん」



