メリーでハッピーなトゥルーエンドを


 ぱちん、と思考が泡のように弾けて割れ、慌てて立ち上がる。
 砂時計を取り出して両手で包み込んだ。
 白色の砂はさらさらと流れ続けている。

(変化を、見逃さないこと……)

 唯一まっすぐ受け取れた言葉を、忘れないよう胸の内で唱えた。

 ────次は絶対に結末を変えてみせる。

 そう強く誓って砂時計をひっくり返すと、途端に薔薇が1輪、色を変えた。
 ()せて黒ずみ、瞬く間にはらりと散ってしまう。

 その変化に驚いているうち、急に足元が揺らいだ。
 お腹の底に響いてくるような地鳴りがしたかと思うと、轟音(ごうおん)に混じって、ピシッ、と妙な音がした。
 顔を上げてあたりを見回す。

「え……? 何これ!?」

 空間そのものにひびが入って、みるみる歪み始めていた。
 割れた鏡みたいに砕けた世界の破片が降ってくる。

 ふっと唐突に浮遊感に包まれた。
 先ほどまで立っていた道路も既に崩落(ほうらく)し、底の見えない奈落へ投げ出される。

「……っ」

 騙された、ととっさに思った。
 このまま真っ逆さまに落下して、この世界ごと闇に飲まれて死ぬんだろうか。
 そして、悪魔はそんなわたしを嘲笑いながら魂を奪うんだ。

 そう思ったけれど、どうやらちがうようだった。
 黒い翼を羽ばたかせる御影が目の前に現れる。

「この闇は時空の狭間(はざま)だ。人間が砂時計を使うとこうなる。おまえの感じてる恐怖も不安も、その代償だと思えば安いもんだろ?」

 落下の反動で吹きつけてくる風に煽られながら、わたしは唇を噛む。

 もうあたり一面が真っ暗で、見渡す限り何も見えない。
 虚無の常闇(とこやみ)が無限に広がっているだけ。

 彼の言う通り、いまは恐怖だけがわたしの心を支配していた。
 どうなるんだろう。
 どうすればいいんだろう。
 すぐ目の前のことも、時間が巻き戻ったあとのことも、見えない。分からない。

 あっけなく郁実を失った無力感と合わさって視界が滲む。

「……ばーか。いちいち絶望してる暇ねぇから」

 ふと、手袋の無機質な感触が目尻に触れた。
 ゆらゆら歪んでいた目の前がクリアになる。
 不敵な笑みをたたえる御影が、面白がるように首を傾けていた。

  そのとき、強張っていた身体からふいに力が抜ける。
 抗えないほどの眠気に襲われて、あえなく目を閉じた。
 崩壊したこの世界の欠片とともに、深淵(しんえん)に吸い込まれていく────。

「さて、次はどうなるかな」

 意識を手放す寸前、そんな彼の呟きが微かに聞こえたような気がした。