メリーでハッピーなトゥルーエンドを


 ふっとあたりが(かげ)る。
 とっさに見上げると、上から鉄の棒がいくつも降り注いできていた。
 工事現場の足場がみるみる崩れて迫ってくる。

「……っ」

 ぎゅ、と目をつむって身を縮めた。
 直後に響き渡ったのは、落ちてきた鉄骨がアスファルトに叩きつけられる、けたたましく甲高い音。
 一拍置いて訪れる静寂。

 耳をふさいでいた両手が震える。
 恐る恐る目を開けると、そこには鈍色(にびいろ)の鉄骨が折り重なっていた。

 その下から音もなく広がってくる血溜まり。
 未知の触手(しょくしゅ)が迫ってくるみたいで、おののいて思わずあとずさった。
 立ち上がろうとしても、愕然(がくぜん)としてしまって力が入らない。

「うそ、でしょ……」

 からからに渇いた喉に声が張りついて、呟いても音にならなかった。
 心臓が激しく打って息苦しい。

 この惨状を目の当たりにしたら、じたばたするまでもなく理解できた。
 思い知らされる。
 郁実は“今日”も死んでしまったんだ────。

「あーあ、またか。救うどころか救われちまったな」

 おおよそこの状況に似つかわしくない、暢気(のんき)な声が聞こえた。
 いつの間にか現れた御影が悠々とこちらを見下ろしている。

 やけに周囲が静かだと思ったら、また現実世界の一切を置き去りにしてきたみたいだ。
 わたしたちは(とばり)の中にいた。

「何なの……?」

 混乱を隠せないまま、震える声で尋ねる。

「どうなってるの? 郁実は何で……どういうこと? 血を吐いたのも、病気とかじゃないよね? この鉄骨だって急にありえない……! どう考えたっておかしいよ!」

 頭の中に浮かんでは弾ける疑問の数々をぶつけるうち、なぜか泣きそうになって呼吸が詰まった。

「事故で死んじゃうはずだったでしょ。だから避けたのに! こんなの……こんなの聞いてない!」

 半ば八つ当たりのように喚いても、御影は顔色ひとつ変えない。
 まるで最初から、この結末を迎えることを知っていたみたい。

「“聞いてない”? それでもおまえは気づいてるように見えたけど」

「え……?」