「ごめん、花菜が困ってるのは分かってるんだけど。でも、困らせたい……って言ったら怒る?」
感情を持て余すくらいどきどきしていた。
息も忘れて身じろぎできないでいるわたしの頬に、郁実の手が伸びてくる。
だけど、それが届くことはなかった。
「……っ」
「郁実?」
ぴたりと動きを止めたその手で、彼は口元を覆っている。
色をなくした顔が苦しげに歪んだかと思うと、ふいに咳き込んで崩れ落ちた。
「郁実……!?」
どさ、と鞄が落ちて紅茶のペットボトルが転がる。
膝をついた彼を慌てて支えた。
けれど、わたしなんかでは到底及ばなくて、彼はその場にくずおれる。
しなやかな指の隙間から、血が筋になって伝っていた。
ぽたぽたと地面に赤い染みを広げていく。
「だ、大丈夫? どうしたの!? 郁実……!」
彼は浅い呼吸を繰り返し、苦しそうに胸を押さえていた。
ぎゅう、と掴まれたシャツに渦巻くようなしわが寄る。
「だい、じょうぶ……だから」
息も絶え絶えの掠れた声と血の気を失っていく肌、冴え渡るような濃い赤色にじわりと涙が滲んだ。
頭が真っ白になる。焦りと恐怖と混乱で。
(なに……。どういうことなの!?)
まるで発作みたいに突然苦しみ出した上、血まで吐くなんて普通じゃない。
まさか、重い病気……?
(ずっと隠してたの? それとも、わたしが今日の行動を変えたから……事故の代わりにこんなことに?)
アスファルトの冷たさが染みてきて、身体の芯から凍てつくような心地がした。
どうしよう。
どうすればいいんだろう。
わけが分からない。
(いい……もう何でもいいから、早く戻さなきゃ)
このままじゃ危ない。これじゃ助からない。
それだけは不思議と本能的に理解できた。
冷えきった手でポケットを探る。
指先が砂時計に触れたとき、郁実が顔を上げた。
「か、な……」
重たげに身体を起こしたかと思うと、その勢いで手を伸ばしてくる。
上腕のあたりを強く押され、バランスを崩したわたしは突き飛ばされるような形で後ろに倒れ込んだ。
突然のことに驚いて、したたかに打ちつけたてのひらやお尻の痛みも麻痺していた。
彼は力尽きたみたいにうつ伏せで倒れている。
名前を呼ぼうとした瞬間、誰かの叫び声が響いてきた。
「危ない!」



