「そうか?」
御影が鋭く口を挟んだ。
「えっ、何か間違ってる……?」
「……いや。まあ、とりあえずやってみりゃ分かんだろ」
そう言って前を向いたきり、彼は口をつぐんでしまう。
そのやけに綺麗な横顔を見つめていると、妙な感覚がじわじわと根を張り始めた。
(あれ……)
考えと直感が何だかそぐわないような気がする。
何かを見落としているような、忘れているような、そんな小さな違和感を自覚した。
だけど、分からない。
何が引っかかっているんだろう。
この悪魔も、答えを教えてくれるような親切心なんて持ち合わせていないだろう。
「おい、聞こえてるからな」
ふいに不機嫌そうな瞳に捉えられ、慌てて目を逸らした。
「……勝手に心読まないでよ」
「じゃ、俺の悪口なんか考えねぇことだな」
まったく恐ろしくて厄介な存在だ。
精一杯の抵抗として睨んでみても、すべてを見透かすような薄い笑みに一蹴された。
(いじわる。いじわる、いじわる……)
どうせ効かないと分かっていながら、心の中で思いきり毒づいておいた。
とにかく、わたしの作戦はいま言った通りだ。
あの事故が起こるタイミングで、あの場所に居合わせないようにするのが確実。
相手が郁実なら、道を変えるべく誘導するのだって難しくない。
具体的な指針が定まったからか、いまは不思議と恐怖も薄れ、確かな手応えがあった。
タイムリープするのは今回だけで十分。
未来を知っているわたしに、不可能なんてないはずだ。
◇
放課後、郁実とともに教室を出て階段を下りた。
2階にさしかかったとき、何気なく目をやった廊下で覚えのある姿を見つける。
(あ、柊先輩……)
彼の隣には、見慣れない金髪の女子生徒がいた。
小柄で白色のカーディガンがよく似合う、お人形さんみたいな雰囲気の女の子だ。
“昨日”とはまた別の、タイプも全然ちがう子。
『花菜ちゃんは特別だから』
耳に残る声にノイズが走り、甘い言葉がひび割れた。
揺れた感情は温度を低めていく。
ショックなのは、だけど自意識過剰な勘違いをしていたせいじゃない。
ただわたしの思い描いていた理想像というか、彼への憧れが裏切られたことが悲しかった。
博愛主義者だったりするんだろうか。
けれど、じゃあどうしてわたしに“特別”だなんて言ったんだろう。



