チャイムが鳴って席に戻ると、隣にはいつの間にか御影が戻ってきていた。
さっきまで姿が見えなかったけれど、彼の場合は結界の内側にこもっていただけの可能性もある。
退屈そうにあくびをしている彼に声をかけた。
「あれ、どこ行ってたの?」
「俺の勝手だろ、ほっとけ」
刺々しいとまではいかないものの、ぞんざいなもの言いだった。
思わずむっとしてしまう。
「あっそう! それくらい教えてくれたっていいのに」
「あのな……俺とおまえは確かに契約した。けど、別に味方とかじゃねぇから。俺に助けとか期待すんなよ」
椅子に腰を下ろしたわたしに身体ごと向き直り、ふてぶてしく言ってのける。
突き放されたわけではなさそうだった。あくまでも。
「そっか、確かに。最終的にわたしの魂を奪えればそれでいいんだもんね。御影にとって、結果はどっちでも構わないんだ」
「呼び捨てかよ……まあいいけど。そういうことだ」
郁実を救えても救えなくても、彼に損はない。
わたしの魂をものにするためだけに手を貸してくれたのなら、とことんサディスティックで冷酷だ。
眉をひそめて見つめるも、彼は愉快そうに口角を上げるのだった。
「見ものだな、今日の結末」
「“昨日”の二の舞にはしないから。あなたにはつまんないかもしれないけど」
「ふーん、よっぽど自信あんだな。どうするつもりだよ」
机に肘をつき、御影は興味深そうに身を乗り出す。
わたしは気を引き締めるように一度息を吸ってから答えた。
「要はあの事故を避ければいいんでしょ? だから、道を変えるか時間帯をずらすか……。そうだ、あの横断歩道を渡るタイミングを変えるだけでも、郁実は死ななくて済む」
彼は表情を変えることなく頷く。
肯定とも納得とも言えない、ただ聞き流しているだけのようなリアクションだった。
けれど、特に気に留めることなくわたしは続ける。
聞いて欲しいわけじゃなくて、言葉にすることで考えをまとめたかった。
だんだん思考が澄んでいく。
「そう考えると、案外簡単かも。わたしがやることはいたって単純だし」
言っているうちに何となく気が抜けて軽くなった。
事故さえ避けられれば、あの道さえ通らなければ、絶対に郁実を救えるんだから。



