「あ、柴田さんから飲み会の誘いが来た。今日の夜か」

柴田さんは彼女の2年先輩の自他共に認める美人女子社員だ。

会ったのはもちろん今日がはじめてだが連絡先交換は既にしている。

「深沢さんも来るでしょ?」

彼女が「何を言ってるんだコイツは」という顔で大きく首を横に振る。

「行くわけないです。ていうか、そもそも誘われません」

「なんで?」

「なんでって、私、地味なコミュ障なんで。あんなキラキラ女子さんたちの中には入れません」

「そうなんだ」

「はい、そうです」

「じゃあ、明日の夜は?」

「入谷さんが今どこで会ったか教えてくれれば、明日の夜会う必要もないですよ?」

つ、強気だね。さすがにちょっと笑えなくなって口を尖らせる。

「なんだよ、そっちが俺のこと忘れてるくせに」

すると少し彼女が怯んだ。

「そうでした、ごめんなさい」

あ、謝らなくてもいいのに! 決して責めたいわけじゃない。

ただもっとゆっくり話がしたいだけ。

何かもっと彼女が俺と二人で会ってもいいと思えるような理由をつけねば……。

「わかれば良し。じゃあさ、君が俺のこと思い出してくれたらご褒美あげる」

「ご褒美?」

「抱えてる投資の損益、取り戻すアドバイスしてあげる。俺、大学は経済学部だったし高校生の時から投資やってるからそれくらい簡単だよ」

「本当ですか!? 私、絶対に入谷さんのこと思い出してみせます!」

はじめて彼女が目を輝かせて俺を見る。

「なんか急にやる気になったね。ちょっぴり複雑だけどまあいいや。じゃあ、明日の夜、楽しみにしてるから」

スマホでお互いの連絡先交換をすると、俺は彼女を残して先に屋上から出た。